第44話 飛んで火にいるサメの虫ですわ!

「ラトマ」

「ごきげんよう、姉さん」


 完全なアウェーだというのに、ラトマには余裕がありました。 


「誰だ、あいつは?」


 ラトマを見て、おとうさまが指さします。


「はじめましてかしら、シャイダー・シュヴェーヌマン。あたしは深きものの総統、赤の女王の娘ラトマ・ナイアよ」


 父に対し、ラトマが名乗りました。


「赤き女王ナイアだと!? どうして深きものが、ここに入ってこられるのだ!?」

「決まっていますわ! 妹も、わたくしと同じシュヴェーヌマンの血を継いでいるからですわ!」

「お前の妹だと?」

「ええ。あなたの弟君と、ラトマの母親とがねやをともにしたのです」


 義父の名を出すと、おとうさまは嫌な顔をなさいました。肉親にまで嫌われているとは。


「そうか。赤の女王は、サメ使い後を欲しがっていた。だから、シャイダー氏の弟と……」


 なるほど。読めましたわ。


 赤の女王とやらは、この領域に入るために、ラトマを産んだと。


「お察しのとおりよ。あたしは、そのため『だけ』に作られた構成員でしかないわ。それが一番許せない!」


 ラトマが、怒りをあらわにしました。


「だから、この聖域をぶっ壊して、役目を果たす。その後は赤の女王も殺して、あたしがすべての神の頂点に立つの! そのために、邪魔なサメ使いを全滅させる!」

「そうはいきませんわ。ここであなたを倒して、わたくしは仲間の待つ地上へ戻りますわ」

「安心なさいな、姉さん。一人じゃ寂しかろうと思って、お友だちも連れてきたわ」


 ラトマが、配下らしきモンスターに何かを投げさせます。


「エビちゃんさん! デジレ!」

「タラさんもいるよ!」


 ちゃんさん、デジレが、砂地に転がされました。みんな、ケガをしています。


「つ、強い」

「気をつけろ。コイツ、アタイらじゃ歯が立たねえ」


 二人に続き、タラさんも負傷していました。


「ルカンさん。あなたが正しかった。ラトマシュヴェーヌマンは、いきなり襲いかかってきたのです」


 ラトマはわたくしを追って、異次元の渦に入ろうとしたそうです。


 それを止めたちゃんさんとデジレを、一蹴しました。


 世界の危機を感じ取ったタラさんが、上官であるラトマに攻撃を仕掛けます。ですが、敵うはずもなく。


「全員、ここに連れてこられました。なにが恐ろしかったか、あのモンスターを見ればわかります」


 赤いモンスターを、タラさんが指さしました。


「そうでしたか。ですがタラさん、ご安心を」


 わたくしは、タラさんに呼びかけます。


「なにが安心なのよ、姉さん?」


 ラトマが、眉間にシワを寄せました。


「飛んで火にいるサメの虫とは、あなたのことなのですわ!」


 わたくしは、ヤリを掲げます。


 この聖域を覆っていたサメたちが、わたくしの周辺に集まってきました。


「妹といえど、サメの聖域に深きものを入れるわけには参りません。勝負ですわ!」


 今は姉妹の情より、使命ですわ。


「我が声を聞きなさいまし! すべてのサメさんたち!」


 サメが鳴くのかはわかりませんが、「ごお」という声が鳴り響きます。


「くらいなさい、ラトマ。【シャークネード・ワールドタイフーン】!」


 これまでのシャークネードとは比較にならないほどの竜巻が、ラトマを覆い尽くしました。


「細切れになりなさい、深きものよ!」


 サメの幻影ではなく、ホンモノのサメです。生身では、ひとたまりもありません。


「フン、【ラスト・チェーンソー】!」

「なあ!?」


 ですが、血を吹き出したのはサメたちの方でした。


 ラトマはサーベルをチェーンソーに変えて、応戦したのです。


 彼女の背後を守るのは、さきほどの赤い怪物でした。


 シャークネードを破って、ラトマが砂浜に降り立ちます。 


 振り返った怪物は……。


「サメですわ!」

「そう。この者は【デヴィル・シャーク】。あたしもサメ使いなの」


 なんと、ラトマの守護獣もサメだったのです。

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