第40話 妹との対決ですわ!
「ラトマ、お久しぶりと言ったほうがよろしいのでしょうか」
「ええ。いつ以来かしら、姉さん。助けなくても、あなたは無事だったわ。そういう方ですもの」
さすが、ラトマですわ。わたくしの身体能力をご存知でいらして。
「あなた、覚えてらして? あなたがわたくしにくださったペンダント。今でももっていますの」
「え、ええ。覚えているわ、ルクレツィア姉さん。貝殻で作ったのよね」
わたくしがペンダントを見せると、ラトマは会話を合わせました。
「ルカン?」
話に割り込もうとしたステイサメさんを、わたくしはウインクで制します。
「ええ、『覚えていない』でしょうとも。ええ。少なくとも、あなたは」
「姉さん、どういう意味よ?」
怪訝な表情を、ラトマは浮かべました。
「こういう意味ですわ!」
わたくしは、ラトマの腹を蹴り飛ばします。
「くっ!」
さすがラトマ。体術で受け止めましたわ。それでこそわが妹……のニセモノですわね。
「バレていたのね」
「本物のラトマは、義父を殺す子ではありませんもの。それに、わたくしの体術などさばききれません。海軍にいようとも、わたくしのことを慕っていらしたから」
「ではそのペンダントの逸話は?」
わたくしは、ペンダントを見せました。
「貝殻なのは当たっていますが、妹が作ったものではありません」
妹は不器用で、夏休みの研究さえ、わたくしを頼ってきたほどです。
「これは、おとうさまがくれたものですわ。あなたどころか、ラトマさえ存在を知りません。ずっと、懐に隠していましたから」
追放され流刑の身となっても、これだけは守り通しました。このペンダントこそ、わたくしのアイデンティティといっても過言ではありませんわ。
「では、本物のラトマさまはどこです!?」
海軍時代のラトマをよく知るタラさんが、ラトマのニセモノを問い詰めます。
「おそらくは、もう」
わたくしは首を振りました。それはもう、惨たらしく死んでいることでしょう。
「やってくれたわね。本物のラトマに取って代わって、海軍を裏で支配してあなたを拘束しようとしたのが、間違いだったわね。もっと正攻法で攻めたらよかったわ」
「ラトマはそこまで頭の回る子ではありませんでしたわ。そこだけは、そっくりでしたわね」
わたくしの挑発に、ラトマは乗ってきません。
「そのようね。でも、ハンデのつもりだった。あなたなら、うまく逃げおおせると思ったから」
ラトマが、サーベルを正面に構えます。天へと突き立てるように。彼女の肌が、褐色に染まります。
ショートカットの少女ですが、わたくしはその姿に見覚えがありました。
「まあ。ダークエルフさんでしたか。ひょっとして、あなたのお母様は」
「ええ。シュヴェーヌマンの元・側使えよ。褐色エルフメイドとの間に生まれたのが、私なの」
なんとも数奇な。よもやわたくしと偽ラトマは、親戚同士とは。
「私もラトマ呼びでいいわ。名前も同じだから。【
サーベルで、ラトマがわたくしに攻撃を仕掛けてきました。
「太刀筋が鋭いですわね!」
「私が、赤の女王を継ぐ条件は、あなたを倒すこと!」
赤い船の上で、わたくしとラトマは戦闘になります。
ですが、ズゾゾ……と、黒い影が浮上してきました。まだ、リヴァイアサンが生きていたようです。
「おのれ赤の女王! 我ら深きものを裏切る気か!」
「私の目的はルクレツィアを越えること! あんたたちは関係ないわ!」
「ならば、姉妹揃って死んでしまえ!」
また、わたくしたちに向けて虹色の弾を撃ってきました。
これは、避けようがありませんわ。
「おどきなさい、ラトマ」
わたくしは、ラトマを突き飛ばして海へと放り出しました。
「なあ!?」
ラトマが体勢を立て直す間に、わたくしは水の弾丸を受けます。水圧とも衝撃波とも違うねっとりとした感触が、わたくしに襲いかかりました。
攻撃手段では、ございません。どこか遠くへ飛ばされる感覚です。
「リヴァイアサン、貴様」
「フハハハ、ここではないどこか見知らぬ世界へ飛んでぐへええ!」
ラトマが、海からダイブしました。すさまじい跳躍を見せて、サーベルをリヴァイアサンの脳天へ突き刺しました。
「ぎゃああああ!」
今度こそ、リヴァイアサンが絶命します。
あの鉄のような堅さだったリヴァイアサンの頭蓋骨を、たった一撃で。
感心している場合ではありませんでした。早く、ここから脱出せねば。
しかし、どうにもなりそうにありませんわね。
「ルカン!」
デジレが、わたくしに呼びかけます。
わたくしは、「大丈夫ですわ」といったつもりでした。しかし、デジレやエビちゃんさんには、わたくしの声が届いていないようです。
七色に光る空間を、わたくしはただたださまようのみ。
このままわたくしは、どことも知れぬ異次元へ飛ばされてしまうのでしょうか?
「平気さ、ルカン。ワタシがついているから!」
「ステイサメさん!」
そうです。わたくしには、ステイサメさんがいらっしゃるのでした。
ステイサメさんの手を取って、わたくしは異次元の海を渡ります。
暗い穴の中に吸い込まれて、わたくしたちの異次元へ続く旅は終わりました。
無事に脱出できたようですわね。
「しかし、ここはどこでしょう」
見上げると、見たこともない白い砂浜の上に立っています。小さい島のようですが。
「ここは、サメの聖地ワスカバジ。どうして、お前がココに?」
聞き覚えのある男性の声に、わたくしは振り返りました。
「おとう、さま……」
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