第34話 新しい目的地を目指しますわ!
わたくしは、このヤリをステイサメさんに授けました。
「ルカン、これはワタシがもらっていいの?」
「もちろんです。いえ。お返しいたしますって、言ったほうがよろしいんですわよね?」
切っ先こそありませんが、これは紛れもなくステイサメさんの装備でしょう。
バロウズ女史も、「はい」と肯定なさいました。
「このヤリは、あなたと召喚獣であるサメとのシンクロ率を高めます。さらにパワーアップするでしょう。しかし、本格的な覚醒にはまだ足りないものがあります」
「切っ先ですわね」
「ええ。深きもの程度なら、これだけでも十分に渡り合えます。ですが三叉の矛先が揃って、初めてこの武器は真の力を発揮いたします」
ですが、目覚めさせるにはわたくし自身がサメの神に認められる必要があるそうです。
「彼からの信頼を得て、あなたは真のサメ使いとなれます」
「その神とは、どこに?」
「海の中心。聖地ワスカバジ。そこに行けば、あなたはサメの神と会えるでしょう。しかし、そこは異界と繋がっているとか。あなたのお父上でさえ、たどり着けませんでした」
そんな険しい海とは。
「本来ならば、シャイダー様が神として認められるはずでした。あなたにも素質はあったのですが、娘に重荷を背負わせられないと」
あくまでも、わたくしはシャイダーの娘でしかないと、深きものたちに思わせる必要があったそうです。【サメ使い】の能力までは、受け継いでいないと。
ただ、わたくしが成長してサメ使いとして覚醒したときのために、専用の武器を隠し持っていたそうです。
「申し訳ありません。あなたをお守りできず」
「いいえ。あなたはよくやってくださいました。この街をお願いしますね」
「ルクレツィア様、お気をつけて」
港に、わたくしたち専用の船を用意してくださっているとか。これはありがたいですね。
外へ出ると、海軍さんがお給仕をされていました。貧民に、コーンスープを与えているようですわね。
フォスター司令の姿もあります。
「あ、ちょうどいいところに」
ショートカットの女性隊員が、こちらにやってきました。
「上司に代わって、お願いします。深きものに関する情報はありませんか?」
「いえ、特には」
わたくしは、はぐらかします。彼らを危険に晒すわけには参りません。さらに、海軍はラトマともつながっています。ヘタに情報を漏らしては、深きものにエサを与えるようなもの。
「フォスター隊長が気に食わないのは、わかります。とはいえ、なにかお聞かせください」
業を煮やした女性隊員が、わたくしに頭を下げます。
「こら、タラ。冒険者に願い出るなど」
フォスター司令が、女性隊員をたしなめました。
この女性隊員は、タラというようですね。
「あなたのせいで、情報が錯綜しているのではないですか! なんでも自分勝手に決めつけるから!」
聞けば、サメ使いは街の英雄とも、不幸を撒き散らす悪女とも言われているそうで。海軍としては、事実確認をしないと帰るに帰れないのだとか。
「あなた方は、街を救った英雄です。とても悪い人だとは思えません」
「しかし、捕らえられていた女が毒素を撒き散らしていたという話も」
それは、否定できません。事実ですわね。しかし、捕まって無理やり水を汚染させられていました。彼女に罪はないのです。しかし、海軍に言っても理解してもらえるか。
「フォスター! あなたはなんでも悪い方向へ捕らえすぎです!」
「事実を言ったまでだ! だから事情を聞きたいと頼んでいるのではないか!」
「それが人にモノを頼む態度ですか!? 彼らは今、深きものを一番倒している功労者ですよ! ミグの活動報告書を読んでいないのですか? 冒険者ギルドのマスター・ハミルトンさんからも、太鼓判を押されているんですよ!」
マーレイという話を聞いて、デジレが手を上げました。
「ちょっといいか? 『ハミルトン』って、『ゴーレム殺し』の?」
「そうだ。詳しいな」
「マジか! ギャハハ!」
フォスター司令が言うと、デジレはガハハと笑います。
「何がおかしいのだ?」
「傑作だ。アタイらの後ろについていただけのデブが、ギルマスとは!」
ハミルトンも、わたくしを訓練した悪ガキの一人でした。
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