第35話 街の人たちがパニックですわ!
わたくしも、にわかには信じられませんでした。
ハミルトンはわたくしの次に若い女性です。けれど、わたくしを家来のようには扱わず、友だちとして接してくださいました。どちらかというと、腕っぷしより知恵が回る子でしたわね。
「実はルカンさん、あなたたちの情報も、ミグにいるギルマスのハミルトンさんからいただいたのです」
海軍のタラさんが、そう教えてくださいました。
「そうだったんですの。けれど、残念ですわ」
わたくしたちの素性を明かすわけには、まだ参りません。フォスター指揮官は大嫌いですが、海軍さん方にまで危害を及ぼすわけには参りません。
「お気の毒だとは思いますが、お力にはなれませんわ」
フォスターは正直、わたくしの中で敵と認定しております。なーんにも情報は与えるつもりはございませんわ。タラさんに関しては、お気の毒さまですが。
「わかりました。ありがとうございます」
「ご容赦を。まあ、目撃したらお伝えでもしましょうか?」
「お願いしま……えっ!?」
タラさんが、わたくしたちをかばって前に出ました。
街の人達が、うめき出しましたわ! 何が起きましたの?
「ルカン、あれ!」
街の住民たちが、口から何かを吐き出しましたわ! ヒレの付いた、小さな怪物です。
「そういえば深きものって、人をバケモンに変える酒を作ってるって言っていなかったか!?」
デジレの言葉から、わたくしはバロウズ女史の話を思い出しました。たしかに、そんなことを言っていたような。
「やはり、お前たちが絡んでいたか。この者たちを牢へ!」
フォスターの指示で、海軍たちがわたくしたちを取り囲みましたわ。
無礼な。これから、父上の後を継ぐ大事な儀式がございますのに!
「放しなさい!」
思わず、突き飛ばしてしまいそうになります。
海軍さんたちは、あっけに取られていました。わたくしの腕力に、気圧されてでしょうか。女に腕っぷしで勝てないなんて、思っていなかったのでしょう。
ムリに振りほどこうと思えば、できますわ。しかし、相手を傷つけるわけには参りません。ここはおとなしくするのが、得策でしょうか。
そうは参りませんわよね。サメ使い継承の儀式はまってくださいません。こうしている間にも、この街のようにヤバイ現象が起きていることでしょう。一刻も早く儀式を終えて、深きものたちの野望を阻止しなければ。
どうにか切り抜ける奇策を練るのが、海賊というもの。
しかし、海軍たちは進みませんでした。更に、驚くべき光景が目の前に広がったからですわ。
なななんと、街の人が吐き出したヒレ付きの怪物が、苦しみだしたのです。
一匹や二匹ではありません。すべてです。住民は怪物にはならず、むしろスッキリとした顔立ちになっていました。しまいには、すべて死に絶えましたわ。死んだ化け物たちは灰になって風と同化しました。サンプルさえ残りません。
「どういうことだ? いったい、何が起きているのだ?」
フォスター司令は、戸惑っています。
「デジレ、なにかわかりますの?」
「ああ。おそらく深きものは、街のヤツラをバケモンにする仕掛けを施していた」
材料は、水だろうが作物だろうが同じでしょう。
「だが霊樹が復活してそこからパワーを得た作物を食った。その作用によって、化け物になる因子を吐き出せたんだと思う」
なるほど。わたくしたちは、街の人たちを救えたわけですわね。
「この怪物の調査が急がれます。フォスター司令、ご決断を」
「ぬぬう」
今のうちに逃げましょうか? しかし、我々もことの行く末が気になります。とはいえ、ステイサメさんたちだけでも逃さねば。
「みなさん、わたくし一人が捕まりますわ。みなさんは、脱出を」
「ダメだよ、ルカン! キミが儀式に行かないと意味がない」
「後で助けに来てくださいまし」
この場を収めるには、それしか。
「いえ、待ってください! あそこを!」
タラさんが、フォスターの腕を掴みます。
「何があるというのだ、タラ?」
「ご自分の目で確かめなさい!」
フォスターの抗議を無視して、タラさんは時計台の上を指差しました。
そこには、茶色いローブを着た神官風の老人が立っているではありませんか。
「ぐぬう、ラトマ姫に隠れて遂行していた我が作戦が、こうもあっさりと!」
老神官は、街の光景を見て悔しがっています。
「あの者は」
「ルカン、知っているの?」
「わたくしを追放した神官でしてよ!」
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