第33話 霊樹『エドウッド』を元に戻しますわ!

 たった四人の冒険者に全滅されるなどと、思っていなかったのでしょう。宮殿の攻略は案外モロいものでした。建物の倒壊を気にせず破壊することが目的ですから、壁や天井が崩れることを気にしなくても構いません。惜しみなく、大技を連発していきます。

 

 まさに、地獄絵図でした。宮殿は焼け落ち、深きものたちは地下水脈へ逃げていきます。


「ああ、そうだった。アタイの血は毒性が強いんだったなあ!」


 自分の手を傷つけ、デジレは水に浸しました。


「くたばりなよ。【ブロブ】!」


 赤い血が、意思を持っているかのように広がっていきます。本当に思考能力があるのでしょう。血液は泡立ちながら、深きものたちを溶かしはじめました。


 深きものたちも、逃げ出したいようです。


 が、水面はデジレが魔力を込めた血で閉じていました。


「どうよ、自分たちが撒いた毒で死ぬ気分は?」


 悪意に満ちた笑みを浮かべて、嬉々として水面に血を流し込みます。 


 深きものは、滅びるしかありません。死してもなお、彼らはデジレの放った血液に食われ続けました。


 宮殿は、もはや効力を失ったようです。完膚なきまでに破壊され、霊樹は生気を取り戻し始めました。


「あとは、地下水を浄化するだけだ」


 デジレが、地下水脈に魔力を注ぎ込んでいきます。


 霊樹の根っこが、活性化していきました。宮殿づくりで充満していた負のエネルギーが、生命力あふれる心地よい正の魔力へと変換されていくのがわかります。


「これが、霊樹『エドウッド』の本当の力だ」


 あとは、自浄作用で勝手に緑が回復していくだろうとのこと。


「はあ、また腹が減ってきた」


 作物も、元の生態に戻っているはずだといいます。

 



 街へ戻ると、わたくしたちはえらく歓迎されました。


「ありがとうございます! 霊樹エドウッドが治ったおかげで、作物が活気づいています! 名産のトウモロコシも、こんなに大きく!」


 農民が、大きなトウモロコシを見せてきます。形が、小さなサメの胴体みたいですわね。


「あなたたちの功績をたたえて、このトウモロコシを【シャーコーン】と名付けます!」

「……ご自由になさってくださいまし」


 わたくしたちは、商業ギルドへ戻りました。


 バロウズ女史の手筈で、夕飯をいただきます。トウモロコシ満載のシチューとピザなどを、ごちそうになりました。


「あなたのおかげですわ。デジレ」

「いや。アンタの魔力のせいで、育ちすぎたみたいだな」


 デジレは、焼きトウモロコシを芯までバリバリ噛み砕きます。いくらギザ歯とはいえ、食べ過ぎですわよ。 


 みんな未成年なので、バーボンはお断りしましたわ。トウモロコシが原料ですけど。


「深きものは、どうしてこの街を?」

「原料のトウモロコシを使って、『人を怪物にするウォッカ』を開発しようとしていたようです」


 バロウズ女史が、手を震わせました。


 なんという業の深い計画なのでしょう。度し難い。


「税金逃れのヘソクリも、実はトリックだったのでしょう?」


 わたくしは、バロウズ女史に金塊を差し出します。父が持っていた絵画の額縁に埋まっていた、あの金塊ですわ。


「ええ。あなたが【サメ使いの勇者】の力を継いでいると、深きものに知られるわけにはいかず。このヤリも、こっそり隠し持っていらしたようです。いずれ、あなたに渡すために」


 バロウズ女史は、細長い金塊を一つに繋げました。


「どうしておわかりに?」

「ヘソクリ隠しなら、いちいちこんなヘンテコな文字なんて付けませんわ」


 金塊にはビッシリと、魔法の文字が刻まれていました。


「ステイサメさんが、これを解読なさってくださいましたの」


 これこそ我々が探し求めていたものだと、ステイサメさんは語っていました。


「ええ。これこそまさしく歴代のサメ使いが扱いし伝説の武器、デュークワカ。またの名を、ダーク・ワーカー」


 金塊が、一本のヤリへと変化します。

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