第30話 ダンジョンに旧友がいましたわ!

 わたくしが差し出した携帯糧食を、デジレがバクバク食べました。といっても、ただのおにぎりですが。


 食べるたび、デジレは生気を取り戻していきました。


 せっかくなので、我々も昼食にします。


「ルカン、こちらの人は?」


 おかか味のおにぎりをほおばりながら、ステイサメさんが聞いてきました。


「【河童カッパ】のデジレ。ミグの河川敷にあるスラムに住んでいた、悪ガキの一人ですわ」


 ツナマヨネーズ味のおにぎりで口を汚しながら、わたくしは答えます。


「河童さんなの? ワタシ、河童さんなんて初めて見たよ」


 まるで子どものように、ステイサメさんは目をキラキラさせました。まあ、子どもなのですが。


「実際に河童ではございません。見た目だけで、そう呼ばれているだけですのよ」


 わたくしとデジレ、他にギャル二人とともによく遊んだものですわ。


「だが、髪が伸び切っているぞ」


 エビちゃんさんから、ツッコミが入ります。食べているおにぎりは、コンブ味ですね。


 デジレのトレードマークだったおかっぱは、見る影もありません。すっかり、伸び切っていますわね。


「幽閉されていた時期が長かったんだな。手入れできなかった」


 キシキシと、デジレが髪を指ですきます。が、キューティクルは完全に取れちゃっていました。


 クセの強い塩味のタクアンさえ、デジレはバリボリとかじります。食用ではなく、保存用に味を強くしていますのに。


「あなたは昔から、ゲテモノ食いでしたわね」

「ああ。アタイに食えない料理はないっ」

「それは、自慢になりませんよ」


「ガッハハ」と笑いながら、デジレが水筒のお茶をゴクゴクとがぶ飲みしました。


「あー、うまかった。ごっそさん。ありがとなー。どっこらしょっと」


 デジレが立ち上がります。


「え、ワタシとそんなに背格好が変わらない?」

「ああ。胸も同じくらいだな! 腹はアタイが出てるけど」


 デジレが、膨らんだお腹をポンポンと叩きました。まるで妊婦さんのように見えますね。


 彼女は見た目は三人の中で一番チビですが、最年長なのです。


「食後に髪を切りますわ。その前に、お風呂などがあったらいいのですが」

「サンキュな。この先に、回復の泉があらあ。この大木は、もともと霊樹だからよ」


 深きものの影響で、構成を捻じ曲げられているのだとか。おかわいそうに。 


 回復の泉で、髪を整えました。


 ここに浸かり、デジレは本格的に魔力を取り戻していきます。


 エビちゃんさんが、散髪を担当してくださいます。


「他に仲間は二人いたのですが、今は一人のようですね」


 わたくしは、デジレの髪を洗って差し上げました。


 ステイサメさんは、装備品や洋服を洗ってくださっています。 


「アタイは自由がスキだったからな、就職とかまっぴらだったんだ。今のアタイは自由な冒険者。猛毒ビルドのシャーマンだ」


 ステータス表を見せていただきました。デジレは少なくとも、我々の中では最もレベルが高いです。


「だが、その能力を敵に利用されちまった。こうなるんだったら、あいつらと一緒に行動しとくんだったぜ」

「なにがあったのです?」


 まさか【深きもの】ごときに、デジレが後れを取るとは思えません。


「【アサイラム】のボス的なヤツと戦ってさ。そいつ、べらぼうに強いんだよ」

「あなたほどの実力者が、負けるとは」

「女戦士でさ。海軍の服装をしていた」


 銀髪ショートヘアの、女海軍だったそうです。


「あれは、ダークエルフだった。アタイより魔法に長けていたな。あのヤロウ、今度あったらぶっ殺してやるぜ。その前に、武器を取り戻さないと」

「あなたの武器は、まず壊されてはいないでしょう。そもそも、壊せませんし」

「おうよ。ダチのドワーフに作ってもらった特注だからな!」 


 デジレのビジュアルが、当時の姿に戻りました。


「ありがとな! ヤツラのアジトこの奥だ。乗り込もうぜ!」

「もちろんですわ!」

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