第29話 畑を取り戻しますわ!

 冒険者ギルドで正式に依頼を受諾し、畑へ向かいます。

 恐ろしい化け物が、畑を荒らしているそうですわ。


「うわ、巨大バチだよ、ルカン!」


 人間ほどの大きさを持つハチが、わたくしたちに襲いかかってきました。空を覆い尽くすほどの群れですわ。


「ステイサメさん」


 わたくしは、ステイサメさんに力を送り込みます。


「新技で参ります。【サンド・シャーク】ですわ!」


 地面の中へ、ステイサメさんが消えていきました。地上に背びれだけ出しながら、ステイサメさんはスイスイと地中を渡っていました。ボン、と地中から飛び上がり、砂煙とともにハチに食らいつきます。


 本来、サメは砂の中で泳げません。ですが、ステイサメさんなら泳げます。


 これが【サメ使い】の能力だそうで。わたくしの魔力を受けているから、このような行動ができるのです。


 ステイサメさんだけではありません。ステイサメさんが従えるサメたちも地中へ潜っています。敵をかく乱しつつ、飛び上がって食らいつきました。まるでシンクロですわ。


 飛んでいる敵に地中からなんて非効率、と思うかも知れません。ですが、このハチたちは地面から湧き出ているのです。また、砂で相手の視界を奪うことも目的の一つでした。


 視力を失ったハチのお相手は、もちろんエビちゃんさんですわ。


「トオー、トオー!」


 シャコのハサミパンチで、ハチ共をぶっ飛ばします。


 畑のとなりにある森に、不自然にデカい大木がございました。そこには、人面疽のような形のハチの巣が。この大木の裂け目から、ハチ共は湧いていたようですわね。


「【ウォーターガン】ですわ! 溺れなさいませ!」


 巣にウォーターガンを浴びせて、水攻めを致します。


 巨大なハチの巣が、水で溢れていきました。


「巣から出てきたハチは、お願いします!」

「わかったぞ。トオーッ!」


 エビちゃんさんが、襲ってくるハチにエビパンチを浴びせています。


 パンチを食らったハチはアゴを砕かれ、ぶっ飛んでいきました。


 巣の方も、どうやら落ち着いたようです。


 ハチを全滅させると、巣がぐらつき始めました。地面に落ちて、グシャリと崩れます。大木の裂け目の向こうに、さらなる道がありました。


「ルカン、地下にダンジョンがあったよ。そこの土壌から、汚染反応がある!」


 なるほど。空からの攻撃は、地中への注意をそらすためですか。この大木に沿って、地下水が流れているそうです。汚染物質は、地下水を通って畑へと伝っていたようですわね。


「となると、水も汚染されている可能性が高いな」


 なんてことを。水は人々の生命線ですわ。それを台無しにするとは。


「ステイサメさん、ちゃんさん、ダンジョンへ参ります!」


 ダンジョンへ潜っていくと、妙な感じがございました。


「人工的な趣がありますわ」


 内部は明るく、明かりが灯っています。人がなにか作業をしていたような。


「やはり、アサイラムみたいな組織が潜伏して、嫌がらせをしていたんじゃないかな」

「かも知れませんわ。だとしたら、許せません」


 さらに奥へと進むと、やはりここはアサイラムのアジトだったようですわ。


 敵を撃退しつつ、奥へと進みます。


「ルカン、地下牢がある! 誰かが捕まってる!」


 そこにいたのは、ミイラのように干からびた少女でした。手首から、出血しています。


「今助け……え……」


 少女から流れている血が、湧き水を汚していました。なんと、汚染物質はそこから流れていたのです。


 まさか、この子が汚染の病原体だったなんて。


「どうする、ルカン? 殺さなきゃダメ?」


 いかがしましょう? この子は、ムリヤリ出血させられているのでしょうか?


「きっと理由があるはずです。このルカン、きっと原因を突き止めて……」

「ル、カン?」


 少女が、くわっとこちらを見ます。ギョロッとした目で凝視されたので、思わず「ヒエッ」と後ずさってしまいました。ですが……。


「ルカン。ルカンなんだな!?」


 わたくしは、この声に聞き覚えがありました。 


「デジレ? あなた、デジレですの?」


 この声は、遠い昔、一緒に遊んだ悪ガキの一人とそっくりだったのです。

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