第28話 父の知り合いと会えましたわっ!

 ようやく、ウーコムの街に入れました。


「ねえルカン、ツテはあるの?」


 ステイサメの問いかけに、わたくしは首を振ります。


「ございません。ひとまず、商業ギルドへ参りましょう」


 正体を隠している以上、うかつにルクレツィアを名乗れません。わたくしに婚約破棄を言い渡した、海軍司令官もいますし。


 商業ギルドで取引をして寄付を行い、この街が廃れた原因を探るのが先決ですね。


「いらっしゃいませ。物品の取引でしょうか?」


 目にモノクルをハメた三〇代ほどの女性が、受付にいました。


「ええ。ちょっと換金なさっていただきたい商品がございまして」


 わたくしは、戦利品をジャラジャラとアイテムボックスから出します。


「ほお。どれもこれも年代物ばかりで……っ!」


 一枚の写真を見ると、女性受付さんは目の色を変えました。


 あらあ。わたくしとしたことが、自分の写真まで出してしまうとは。


 写真をひったくり、受付の女性が奥へ向かいます。


 数分後、年老いた女性がわたくしたちの前に現れました。


「おまたせ致しました。私はこの街の領主で、バロウズと申します」


 なんと、領主様がおいでになるとは。


「そこのあなた、顔を見せていただけますか?」

「わたくしですの?」

「ええ。あなたのことは、お父上からうかがっております。ルクレツィア様」


 バロウス女史は、わたくしの素性をご存知のようでした。


「わたくしが、わかりますの?」

「ええ。あなたのお顔は、ある方にそっくりです。それに、後ろの方は、サメさんでしょう?」


 ステイサメさんを見て、バロウズさんは微笑みかけます。


「【サメ使い】についても、お詳しいのですね?」

「ええ。よくぞご無事で。あなたはミグで流刑にされたと聞きましたが」


 バロウズさんが、わたくしを。抱きしめました。


「お父上が不幸な事故に巻き込まれませんでしたら、あなたがミグの領主でしたでしょうに」

「いえ。わたくしは領主が務まるほど、人間ができておりませんわ」

「ですが、お仲間はそうは思ってらっしゃらないようで」


 女史の言葉に、わたくしは振り返ります。


 ステイサメさんとエビちゃんさんとが、ともにうなづきました。


「ありがとうございます」

「ここですと、色々な目がございます。こちらへ」


 商業ギルドの奥へ通されました。さすがにギルドの受付で、立ち話は迷惑でしょうから。


「本当に、奥様の生き写しで」

「そうでしたの?」

「ええ。病で倒れられるまで」


 女史は、母専属のメイドさんだったそうです。


「あなたのような美しい方でした。彼女を直す治療法を求めて、あなたの父シャイダーは旅立ったのです。けれど、誰も帰ってきませんでした。奥様もショックで。まだ幼いあなたを残して」


 バロウズ女史が、ハンカチで目を拭いました。


「母を看取ってくださって、ありがとうございます」

「とんでもない。私は、なにもできませんでした」


 ハンカチを握りしめながら、バロウズさんは悔やしげな顔を見せています。


「父はなにか言い残しておりませんの?」

「奥様を苦しめたのは、邪神の影響でした。あの方は、お一人で邪神の封印を守っておいでだったのですが」


 そんなすごい血筋だったのですね。うちの母親は。


「ところが、兄シャイダーの功績を妬んだ弟の策略によって、奥様は毒の矢を受けて病に」


 バロウズ女史の言葉は、衝撃的でした。


「わたしも『これ以上の世話は無用』と、ウーコムに流されました」


 女史はシャイダーから、大金をもらっていました。素性を隠してウーコムの領主として大成し、わたくしが現れるのを待っていたのだとか。


「ですが、どこから情報が漏れたのか、私の正体が発覚し、深きものによる嫌がらせが発生して、街はこの有様で」


 おそらく、養父がからんでいるだろうと。


「死んで当然の男だったのですね。我が養父は」


 怒りがこみ上げてきます。


 でも、とっくに死んだ男など気に留めている場合ではありません。


「これは、沈没船で見つけた宝や金塊です。寄付しますわ」

「ありがとうございます。なんのお返しもできず」


 聞くと、街に食料を提供している畑がモンスターに荒らされているとか。


「退治に参りましょう!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る