第27話 いけ好かない海軍司令ですわー

 面倒な方が相手になりました。向こうは、わたくしの顔など見たことはないでしょう。【サメ使い】がバレたとしても、適当にあしらいます。


「改めてごあいさつを。オレは海軍の司令官、サミュエル・フォスターだ。美しいお嬢さん方、ご無事で何よりで」

「ええ。わたくしはルカン。冒険者ですわ」


 本当はあんな海賊、一人でも倒せたのですが。


 ステイサメさんとエビちゃんさんも、名乗ります。


「エビハラって、オラトリアの騎士団長じゃないか!」

「ですよね? どうしてこんな海域に?」


 海軍たちが、ザワつき始めました。そりゃあ、ちゃんさんの身分を知ればそうなるでしょう。


「深きものの脅威が迫っているのだ。当然、調査に向かうだろう」

「ええ。そうですよね」


 さっきわたくしたちにボディチェックをした女性隊員が、納得してくれます。


「冒険者か。女三人旅で危なくないか?」

「余計なお世話ですわ」


 胸の前で腕を組んで、わたくしはフォスターの問いに受け答えしました。


「……心理的な拒絶の姿勢だな。気分を害したか?」

「そんなところですわ」


 この方に歯向かっても、いいことはありません。ただ、悪態が口をついて出てしまいますね。生理的に、この方は受け付けません。


「まあまあ」と、ステイサメさんがわたくしをなだめてきました。


「この街に、何をしに来た?」

「個人情報ですわ。ほっといてくださる?」

「答えたくないのか。まあいい。ところで、そのサメは召喚獣か?」

「そうですわ。なにか問題がありまして?」

「実は、妙なウワサが立っている」


 なんでも、サメ使いを名乗る美女が、悪事を働く一団を成敗したとか、海を荒らす怪物を撃退したとかで。


「そういうのは、海軍の仕事だ。我々に任せておけばいいものを」

「大きい団体は、動くだけでもなんらかの許可が必要になります。たとえそれが歩くだけの仕事でも」

「詳しいな。元軍属か、貴族の出か?」


 アゴに手を当てながら、サミュエルはわたくしを横目で見ます。


「常識ですわ」


 わたくしの知り合いだった悪ガキ共も、グチっておりましたわね。

 港町ミグのスラム出身で、彼女たちは有事でも動かない海軍に嫌気が差していました。

 自分たちで世界を救うんだって、大げさな夢をかかげていましたね。数日後には、本当に冒険者になっていましたが。


 わたくしも彼らについていけば、早い段階で自由を手に入れられたのでしょうか。


 いいえ。違いますわね。追放という出来事がなかったら、わたくしはステイサメさんと会えませんでした。エビちゃんさんとも出会えなかったでしょう。


 不幸なことがあったから、わたくしは前に進めるのです。


「ところで、【サメ使い】という称号を持った女性を知らないか? キミほどの背丈と年齢で、恐ろしく強いサメを引き連れていると聞く」

「知ったこっちゃありませんわ」


 わたくしはフォスターから視線をそらして、鼻を鳴らしました。


「なにかあったら、情報をくれ」


 海軍司令フォスターは、わたくしたちから離れていきます。


「ずいぶんと、嫌っていたな?」


 エビちゃんさんが、わたくしに問いかけてきました。


 隠してもしょうがありません。事情をご説明しました。


「なるほど。それは頭にくるね」


 ステイサメさんは、同情的です。


「たしかに。キミの事情はわかった。だがヘタに反抗的な態度を取ると、余計に怪しまれないか? 貴族であるキミが生きていると、向こうに知られてしまう」


 エビちゃんさんは、わたくしの姿勢に難色を示しました。


「そのときは実力行使ですわ。海賊なりのおもてなしをして差し上げますわ」

「キミらしいな」

「ともかく、今は父の手がかりを掴むことが先決です。ただ、ここから先は個人的な事情で動きますのよ? お二人はついてきてもよろしくて?」


 わたくしは、二人に問いかけます。


「私がついていきたいんだ。キミの行く末を見守りたい。それに我々は仲間だ。仲間の過去探しを手伝うのも、悪くない」

「だよね。ワタシも同じだよ、ルカン」


 二人の優しさに触れて、わたくしは頭を下げました。

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