第三章 婚約破棄した相手は、海軍の隊長でしたわ!

第26話 寂れた街につきましたわ

 わたくしたちは、ウーコムという街に到着しました。


 昔は栄えた街だそうですが、深きものとの抗争に破れて廃れてしまったとか。


 今では、街全体がスラム化してしまっているといいます。


「父が関連している街ですから、なんとかしてさしあげたいですわ」

「復興は可能だよ、ルカン。ザラタンを倒して、海域が正常化したから」


 ステイサメさんが、励ましてくださいました。


「だが、完全に立ち直るには二、三年はかかるぞ。それまでに、食いつなぐ手立てがないと」


 エビちゃんさんが、わたくしを心配してくださいます。


 ですが、なんの策もなしに参りませんよ。


「手は打ってありますわ」


 わたくしは、あの街を助ける手段を考えております。


「ルカン、街の復興もそうだが、海軍にも対策を練らないと」


 この海域の海軍は、海賊狩りを盛んに行っているそうです。


「なぜ、逃げ回る必要が? わたくしたちは、なにも悪いことはしておりませんことよ」


 そもそも迷惑をかけている海賊団は『アサイラム』のハズですし。


「たしかにな。キミらは、深きものと対立している。深きものと関連が深い、秘密結社アサイラムの海賊団を壊滅させた。アサイラムに協力する悪の科学者を倒し、その科学者が生み出したザラタンまでをも倒した。それでも、海軍が我らを海賊というだけで逮捕するような無能集団だったら」

「そのときは、そのときですわ」


 海賊なら海賊らしく、振る舞って差し上げるのみ。


 船が、港に到着いたしました。


「止まれ。積荷を確認する」


 厳格な軍人さんが、船を強引に止めます。あの程度の筋力なら、組み伏せられるでしょうけれど、今は大人しくして差し上げますわ。


 乗客たちのボディチェックも、行っていましてよ。なんの権限があってのことでしょうか?


「お嬢さん方、悪いがボディチェックだ。女性隊員をつかわせるので、ご協力願いたい」


 わたくしたちは一応、武装をアイテムボックスにしまっています。普段着で応対いたしておりましてよ。


 わたくしはTシャツとデニムのホットパンツです。ステイサメさんはパーカーと短パン、ちゃんさんは海老茶色の町娘風ワンピースですわ。


 女性の隊員が、わたくしたちの身体に触れました。


「なぜ身体検査をなさいますの?」

「深きもの、及びその組織である海賊アサイラムが、この街を滅ぼしました。我々フォスター海軍がアサイラムを撃退して事なきを得ました。ですが、残党がまた入り込む可能性が」

「まあ、なんともおそろしいですわね」

「ご安心を。我々海軍がお守りいたします。ですからボディチェックにご協力を」

「お安い御用ですわ」


 わたくしは、素直に従います。海軍は、敵ではありませんから。

 ここでヘタに抵抗しては、海賊というジョブ自体が危険にさらされますわね。


「いいの、ルカン? 黙ってて。アサイラム退治は、ワタシたちが主力でしょ?」


 小声で、ステイサメさんが抗議してきます。


「誰が悪の海賊を仕留めても、問題はございません。海賊を撃退して海が平和になった、という事実こそ大事なのですわ」


 手柄など、くれてやりましょう。


「でも」と、なおもステイサメさんが食い下がってきたときでした。


「海賊だ!」


 海軍の一人が、海を指さしました。


 まだ生き残りがいましたのね?


「お嬢さん、下がってなさいませ」

「え? あなたこそ下がりなさい。冒険者の出る幕では」


 ここはひとつ、我々が本気を。


 反対側、大陸側の海から、白い巨大な船が向かってきます。海賊の規模より、遥かに大きいですわね。


「放て!」


 海軍の船から、大砲が火を噴きました。


 さすがの海賊団も、島の方へ撤退していきます。


「ケガはないですか?」


 船首に発つ青年士官が、わたくしたちに目を向けました。


「ええ。なんとも」

「フォスター海軍司令官の、サミュエルだ。我々が来たからには、あなた方に怪我を負わせることはない。安心なさい」

「は、はあ」


 わたくしは、その男性の名前に聞き覚えがあります。


 サミュエル・フォスター殿は、わたくしとの婚約を破棄なさった方でしたわ。

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