第9話 オイスターでしてよーっ!

「はむはむ。うーん、さすがオイスターですわ!」


 わたくしは牡蠣オイスターの味を堪能いたしました。


 といっても、チャーハンですけど!


 いただいているチャーハンは、クラーケンの切り身が入っていますわ。まあまあ、こんなに美味な姿になりまして。


「まさかこちらで出してらっしゃるチャーハンの隠し味が、オイスターソースでしたなんてーっ!」


 お昼のチャーハンも格別でしたが、オイスターソースが入ったことでより深みが増していましてよーっ!


「オイスターソースが安定供給されるようになったから、民間にも払い下げられたのです」


 まだ、牡蠣の身自体は供給できないそうですが。


「すべて、あなたのおかげです。ルカンさん、ステイサメさん、母の店を助けてくださってありがとうございます」

「お母さまの? ここってもしかして」


 実はわたくし、ごちそうしていただいておりますの。ギルドの受付嬢さんに。


「申し遅れました。私は、受付のフーパーと申します。お察しの通り、このお店は私の実家でして」


 それは偶然でしたわ。


「お家は、お継ぎになりませんでしたのね?」

「料理の腕が、からっきしで。家庭料理なら作れるんですけど、お店に出すレベルに達しなくて。うちは母が全部を切り盛りしていて、私はどちらかというと邪魔者扱いでした。外で遊ぶほうが好きで、いつのまにか冒険者に」


 で、受付嬢として働いていらっしゃるそうです。


 平和的な自立でしたわね。家を追放されたわたくしとは大違いです。どうかお幸せになっていただきたいですわ。


「あなたは邪魔者ではありませんわ。ご家族をお大事に」

「ええ。母に恩返しができました。ありがとうございます」


 どうぞ、仲良くなさってくださいまし。


「ところで、例のクラーケンなのですが、アサイラムという海賊団が、関与していると判明しました。グループの一団を捕らえ、現在ボスの行方を追っています」


 捕らえたアサイラム構成員を尋問して、アジトの場所を突き止めたそうですわ。


「それと、構成員から妙なことを聞きまして。クラーケンは、妙な集団から買い取ったというのです」


 フーパーさんが、メモ用紙に変な紋章を描きました。


「クラーケンの額に、こんな紋章が。なにかご存知ですか?」


 ずいぶんと、きったない魔方陣ですわね。ガキの落書きタギングのほうが、もっと上手に書きましてよ。


「……深きもの!」


 突然、チャーハンを食べていたステイサメさんが立ち上がりました。


「これは、【深きもの】のサインだよ!」

「深きものと申しますと、例の絶滅した海のモンスターの郡れですか?」

「うん。まだ生き残りがいたなんて。でも、これは人の手が入っている」


 メモ用紙をグッと顔に近づけながら、ステイサメさんは目を凝らします。


「その深きものが関与しているかわかりませんが、この海域を支配してもっとも利益を得る人物に、お心当たりは?」

「シュヴェーヌマンですわ」


 わたくしは、即答いたしました。


 実はわたくし、シュヴェーヌマン家の会計表を書かされていましたから、内部事情に詳しいですの。


 どうもシュヴェーヌマンは、使途不明金が多すぎます。わたくしの目はごまかせませんでしたわ。


 メモ用紙をお借りして、サササッとシュヴェーヌマンと繋がりのある一団を書き記します。


「こんなに。どれも裏で悪事を働いている者たちばかりじゃないですか。しかも、証拠不十分で起訴できないのに」


「ええ。実はわたくし、とある漁港で両親がトラブルに巻き込まれまして。大事な情報を受け継いでいましたの。復讐のために独自で調査して、シュヴェーヌマンにたどり着いたのですわ」


 怪しまれないように、虚実を交えてお伝えしました。


「なるほど。どおりでお強いわけですね? 自衛のために、召喚術まで覚えなさって」

「ですの」


 もちろん、わたくしがシュヴェーヌマン家の者だとは伏せました。


 信じていただけるかは、わかりません。


 たとえ疑われても、またこの街から逃げればいいだけですわ。


「ありがとうございます。これで、この付近を荒らしている悪党を一網打尽にできますよ! あなたには本当になんとお礼を言っていいやら!」


 フーパーさんは、わたくしの両手をギュッと握ってきました。


「他にも、その【深きもの】とやらに関しても情報が必要ですね。悪党が彼らを操っているのか。それとも深きものが彼らのバックにいるのか」

「おそらく、後者だろうね。彼らは地上で悪事を働くための拠点が必要のはずだから」

「古のモンスター集団の復活とあっては、我々もウカウカしていられませんね」


 突然、フーパーさんは立ち上がります。


「仕事ができました。お二人は、お休みになってください。我々はギルドを総動員して、盗賊団及び彼らに加担する一団を一網打尽にしてきます」

「はい。お気をつけて」


 わたくしはフーパー気圧され、食べるしかなくなりましたわ。


 なんとフーパーさん、宿代まで出してくださるそうです。


 ありがたく、ご厚意を受け取りました。


「ごちそうさまでした……とは、いきませんわ!」


 チャーハンを一粒も残さず平らげたあと、わたくしはステイサメさんと向き合います。


「まだ、デザートが残っているんだね?」


 こちらの意図を汲んでくださったステイサメさんが、うなずきました。


 たとえ関係者を捕まえたとしても、シラを切られる可能性がございます。ならば、直接現場を押さえねば。


「そうこなくっちゃ、ですわ!」


 わたくしたちも、ギルドへ参りますわ。

 アサイラムを退治しに!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る