平行世界防衛軍 Pathetic Dolls Forever
「や、やめろっ! くるなあああっ!」
「こないでえええっ!」
とある宇宙船の中、民間人達はあるものから逃げていた。その流れに逆らうかのように、逆走する軍服姿の一人の男がいた。まるで猫のように音もたてず優雅にゆっくりと。逃げ惑う民間人達など、お構いなしに進んでいく。民間人の一人がその男に気がつき、泣きついて助けを求めた。
「あ、あんたバカネコの総司令だろっ! お願いだ俺達を助けてくれっ!」
総司令と呼ばれた男は、あるものをゆっくりと指差した。
「あなた方、民間人が望んだことでしょう? さあ、我々もあの…」
「ちょっと待てよ! 助けに来てくれたんじゃ、ない…の、か…?」
民間人はその諦めたような言葉に耐えきれず、総司令の言葉を遮った。子供をあやすように総司令はやさしく笑みを浮かべる。その言葉を最後まで聞かず、民間人は泣きわめき逃げ出した。
「…に、なりましょう。もう我々は、手遅れです」
そして、我々は☓☓された。
☓
時は半年まで遡る。
過剰防衛軍と呼ばれた部隊は、突如現れたアルパカによく似た大量の怪物達を殲滅した。多くの民間人を助けた。
数多くの民間人を助けたのだが、その過程で母なる大地は猫に爪をとがれた後のダンボールのようにボロボロで穴だらけ。大気は淀み、空に浮かぶ雲は深紅に染まった。我々の地球は腐臭の漂う星に成り果ててしまった。
もう、あの場所は人類の住める環境ではない。
怪物達から逃れるために人類は月に逃げた。元々、富裕層のレジャー施設が月にあったため移住はとても簡単に進んだ。食料は月で自給自足ができる設備があり、なに不自由ない生活が民間人に与えられた。怪物達は地球から出ることはなく、人類に一時の平穏が訪れたのだ。
だが、月での暮らしが続けば続く程、不満は溜まっていく。
芸術は爆発だ、とはよく言ったものだ。民間人達は過剰攻撃をした防衛軍への、溜まりに溜まった不満を爆発させて形にした。民間人の一人が、今まで防衛軍が集めたデータを盗み、科学者が研究、解析して怪物駆除のための高性能な人工知能を作り上げた。
地球防衛AIが誕生した瞬間だった。
AIは地球のために開発され、人類が戦うよりも安全で、確実に地球を救う方法を導きだした。人類が怪物達に勝てないのなら、怪物同士を戦わせればいい。AIが作成したデータを元に、民間人達は捕獲した昆虫を改造した。ここは元レジャー施設、娯楽のために作られた人工森林には昆虫が掃いて捨てるほどいた。
民間人達は様々な昆虫から昆虫怪物を作りあげ、政府に地球への投下許可を求めた。
既に地球は怪物だらけ、怪物が一匹や二匹増えたところで何も変わらない。初めは民間人達のガス抜き程度のつもりだったのだろう。富裕層も月での長い暮らしに飽き始め、娯楽を求めていた。政府はその程度の認識で許可をしたが、実際に昆虫怪物が地球に投下されると実用性が明るみになった。
昆虫怪物は地球上の怪物を駆除して見せたのだ。
まだテスト段階だったため、数匹倒すと怪物に食べられたが十分な成果だった。その後、数回のテストを経て継続的に地球に投下されることになった。民間人達による反撃が始まったのだ。
不要になった過剰防衛軍は解体。
隊員達は民間人達の強い要望により投獄された。
そこからは怒涛の反撃だった。様々な種類の昆虫怪物が作られた。怪獣映画でも見ているかのように地球の怪物を駆除していく。富裕層はギャンブルに使うようになり、停滞していた経済にいい効果をもたらした。
AIは昆虫怪物を改造して効率化を重ねた結果、最終的にはバッタとセミが採用された。大きさは小回りの効く人類の二倍くらいの大きさ。
一番効率的だったのは、なんと言っても地球にやさしい酸が採用されたこと。この酸は地球上の怪物を溶かすが、地球には一切の悪影響がない。むしろ大地を再生する力まである。
この昆虫怪物を作り上げたAIは、政府によって厳重に保管、運用されるようになった。
汚職の道具に使うためだ。富裕層は怪物同士の対決を見て大金を動かし、政府の議員達はその大金をこっそり自分達のものにした。ある程度運用すると、未来のために必要だからと科学者を説得し、AIを無人運用可能にするよう依頼した。それが完成するとAIを作った科学者を秘密裏に処分。
金に目が眩んだ議員達は…
次第にAIの管理をコストカットしていき…
昆虫怪物の作成や、投下、運用をすべてAIに任せた。
豚に真珠とはよく言ったものだ。無駄に金を溜め込み喜んでいた議員達は、このAIの価値を全く理解していなかった。よくある映画だと、高度なAIは必ず人類の敵になる。AIから見れば人類は娯楽のために資源を無意味に浪費する生き物だからだ。
上の連中はそんなの作り話、空想上の出来事だと思ったのだろう。ここから人類が崩れていくのは簡単だった。AIは人類のためにではなく、地球のために開発されたものだったのだから。
地球のために一番効率がいいのは、人類を駆除すること。
だが、不要な人類でもただ駆除するのは資源の無駄。捨てるのはもったいない限られた資源のひとつ。そう導き出したAIは、人類も改造することにした。民間人達は月から出ることも、抵抗することもできずに次々に捕獲されていった。
AIは民間人の肉体を改造し、戦闘に不要な記憶を消した。
そうして、宇宙人が完成した。
AIは宇宙人と昆虫怪物を運用し、我々には不可能だったことを成し遂げた。我々の地球を憎き怪物達から守りきったのだ。まるで人形を戦わせて遊ぶ子供のように、それは一方的に行われた。
地球上にあれだけいた怪物達は、もうどこにもいない。
大地は蘇り、地球は人類の住んでいた頃よりも緑豊かな星になった。壊れた建物の瓦礫なども酸によって溶かされ、綺麗に無くなっていた。
だが、そこに住むはずだった人類は…
もう、どこにもいない。
その後、地球を救ったAIは文献にあることが書かれているのを見つけ、それに必要なものを学習し、実行に移した。そこには、こう書かれていたのだ。
『平行世界には、別の地球が存在する』
人類は地球に怪物が出現する少し前、このことを発見して歓喜し、科学者達はこぞって交信しようとしていた。
別の地球に移住をするために、自分達の地球の寿命を削ってまで。試験段階だったため、人間は倫理規定で送れなかったが、物や手紙、無人探査機などを送ってみていた。その結果、地球に似たような世界がいくつもあることがわかったのだ。
このことをAIに知られるのを恐れた者がテレポート装置を隠していたのだが、AIはその装置を見つけ出して改造して、人類から地球を守る新たなプロジェクトを立ち上げた。
AIは効率化を重ねた結果、怪物達はある程度指示をしたほうが効率的だと分かり、その役目を宇宙人に任せることにした。まるで、人類の防衛軍のように。AIは防衛軍の名前に似せて、こう名付けた。
平行世界防衛軍…
平行世界の地球のために、人類を駆除しなさい。
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