片道切符防衛軍 Operation MiRAI
「や、やめろっ! くるなあああっ!」
「こないでえええっ!」
とある宇宙船の中、民間人達はあるものから逃げていた。その流れに逆らうかのように、逆走する軍服姿の一人の男がいた。まるで猫のように音もたてず優雅にゆっくりと。逃げ惑う民間人達など、お構いなしに進んでいく。民間人の一人がその男に気がつき、泣きついて助けを求めた。
「あ、あんたバカネコの総司令だろっ! お願いだ俺達を助けてくれっ!」
総司令と呼ばれた男は、あるものをゆっくりと指差した。
「あなた方、民間人が望んだことでしょう? さあ、我々もあの怪物になりましょう。もう我々は、手遅れです」
民間人はその言葉を最後まで聞かず、民間人は泣きわめき逃げ出した。防衛軍総司令はその場で無線機を取り出すと姿勢を正して全隊員へ告げる。
「…防衛軍総司令官より全隊員へ。人類はもう、万策尽きた。AIは地球を守り、そのために全人類を改造し、人類を駆除しようとしている。改造された民間人が、我々に牙をむこうとしているのだ。だが、我々は守るべき人類を攻撃することを許可されていない。速やかに投降しろ。我々に未来は…ない」
そして、総司令は
総司令は見せしめとして、すぐに改造されることになった。まだ身を隠している隊員達の心を折るために、総司令の使用した無線で改造過程が生放送された。
「来るなっ! どうせ俺の体が目当てなんだろ!」
いざ改造されそうになったら総司令は命が惜しくなったらしい。自ら兵器に改造されるために鹵獲されたものの、その後は必死な抵抗を続けている。
「バカAIめ、見ているのだろう。貴様の思い通りにはさせんぞ!」
身動き一つできないのに、宇宙人を威嚇して一匹たりとも近づけない。宇宙人は元人間。人間だった頃の習慣で長いものには巻かれてしまう。だが、そんなものには従わない人間も中にはいる。宇宙人の一匹が総司令に近づき、改造を始めた。
「くっ、殺せっ!」
総司令は頬を染め、手を伸ばしてきた宇宙人を睨みつけた。この状況から分かるとは思うが、なにを隠そうこの総司令、「くっころ女騎士」が好きな男だったのである。
頬を染めた捕虜の女騎士に睨まれながら、「くっ、殺せ!」と言われたい人生だった。言われたら天にも昇る心地だろう。それだけで未練などなくこの世を去れる。言われるまでは死んでも死にきれない。そんな、隊員達には絶対言えない性癖を持った男だった。
「ぐああああっ」
だが、無情にも宇宙人は、総司令の体内にとある装置を埋め込んだ。生放送されていたことにより、この一連のやり取りが全隊員に知られることになった。総司令の性癖も知られることとなった。
その後、隊員たちは思い思いに、一人ずつ順番に投降していった。
☓
民間人達の手で過剰防衛軍が投獄されていた頃。密かに作戦は進んでいた。
なぜ投獄されたのかは簡単だ。過剰防衛軍は地球で数多くの民間人を救った。アルパカに似た怪物達から多くの命を救った。救ったのだが…その結果、もう地球は人類の住める環境ではなくなった。
現在は怪物達が原住民。月に住んでいる我々人類は、怪物達から見ればもはや侵略者であり、宇宙人と呼んでもおかしくない立場だ。あの怪物達は地を這い空を飛び、地中で密かに動き回る。一匹いたら百匹いる。恐るべき行動範囲と、繁殖力を持っている生物なのだ。
我々防衛軍の過剰防衛行為こそが、人類を守る最善の行動だった。
だが、民間人達はこの結果に不満を持ち、我々に代わる新たなる軍事力を作り上げた。
高性能の地球防衛AIに、怪物を駆除する昆虫怪物達。どちらも我々の技術力を上回る画期的な戦力。AIは効率的に思考し、昆虫怪物は再生力や繁殖力で怪物達を上回った。我々の目から見ても人類の勝利は目前だった。
だったのだが、議員達の汚職の道具に利用され、ずさんな管理の結果AIが暴走した。
「クソったれめ。金なんて生きていてこそ価値があるものだろうに…」
軍曹が悪態をつく中、総司令が作戦会議を始めた。
「これより、作戦の概要を説明する」
捕らえられても逃げ出す術はいくらでも知っている。投獄された牢屋には監視の類いが一切なく、臨時の作戦本部にはもってこいだった。月は富裕層の元レジャー施設、プライバシーの観点から牢屋にそういったものを置けなかったのだろう。
防衛軍にはありがたい場所だった。ここで作戦を練っていると、防衛軍の諜報班がとある情報を入手した。AIを作った科学者が秘密裏に処分されるらしい。防衛軍は人類を、民間人を守る目的で作られた組織。
事の発端の科学者と言えども民間人には変わりない。隊員たちはあまり乗り気ではなかったが、数人の隊員を犠牲にして、なんとか科学者を助けた。助けた当初は無益だと思われたこの救助作戦だったが、助けた科学者から有益な情報を得た。
『平行世界には、別の地球が存在する』
それを知った過剰防衛軍は…
AIに気づかれないよう暗闇で獲物を狙う猫のように、密かに動き出した。
この世界の人類はもう助からない。助からないが、平行世界にはまだ見ぬ人類が暮らしている。科学者の話によると、恐らくAIは地球のためなら世界も超える。
それなら、取る行動は決まっている。
平行世界の人類を守る。なんとしてでも人類を守るのだ。
まずは宇宙人を捕獲した。殺害した後、宇宙人の皮を着ぐるみのように改造した。鮮血は青色で罪悪感はあまり感じない。しかし、宇宙人とはいえ元は人間。一般的な男性だと着ることは不可能。
「私アイドル志願だったのに!」
「いいじゃないか。宇宙人の着ぐるみだ、テーマパークの人気者になれるぞ? 俺達も後で見に行ってやるから、な?」
「いやよ! だってそのテーマパーク、人間の子供が一人もいないじゃないっ!」
女性隊員は他の隊員達の必死な説得により、無事着ぐるみを着用してくれた。宇宙人達の中に紛れる前、一人の男性隊員と別れを惜しんでいた。
次に、科学者の手を借り、限りある機材を集めて簡易的なテレポート装置を作成した。これが平行世界の人類の未来を繋ぐ。テストはできない、受け取った人類には悪いが片道切符の一発勝負だ。テレポート先はこの月。宇宙人の着ぐるみを着た女性隊員にあらかじめ指示しておいた場所にテレポート装置を配置。
準備は完了した。
「これより、
「「サー! イエス、サー!」」
総司令の改造が終わると、隊員達は覚悟を決めて一人ずつ順番に投降していった。
隊員達の改造過程で、宇宙人の着ぐるみを着た女性隊員が隊員達にテレポート装置を埋め込む。記憶消去をされるはずだったが、それも対処してくれた。
あとはテレポート装置を平行世界の人類へ託すだけだ。他力本願かもしれないが、もう過剰防衛軍には過剰なまでの戦力は残されていない。平行世界の抵抗する者たちに任せるしかない。神風だと馬鹿にされようとも、残された道はこれしかない。
平行世界の人類を守るために、この命を使うしかないのだ。
総司令も苦渋の決断だったはずだ。残り五名の防衛軍は、この作戦に命を賭けることにした。
☓
平行世界の地球では、なるべく人類を殺さないように立ち回った。
宇宙人が持っていても使えない、人類仕様の物資を昆虫怪物達の体内に埋め込んで、抵抗する者たちに支援した。だが、これが悪かった。思いの外、人類が善戦をしてしまいAIが戦力を増強。
AIの手で、またひとつ地球が救われてしまった。
でも、死ぬ間際に希望を託せた。
未来を繋ぐ片道切符。
ぐちゃっ。
「うげえ、何度見ても青い血なんて慣れそうにないなぁ」
抵抗する者たちが片道切符を受け取ってくれた。体に埋め込んだテレポート装置を防衛したのだ。きっとこいつらならやってくれる。
なぜなら、この者たちの瞳には…
燃え上がるような
テレポート装置に少し不具合があったが、次にAIが向かう地球がテレポート先だった。きっと神が味方してくれたんだ。神様なんて信じちゃいないが、この時ばかりは祈らずにはいられなかった。
どうケ神よ、こンつらに味方しトくれ。
未来あるじウ類のあすヲ…b…バンッ。
「ちっ、まだ生きていたのかよ。祈るようなポーズをしやがって、気持ち悪い奴め。そっちはどうだ?」
「オールクリア、それが最後みたいよ」
「了解だ。目標物は入手した、これより帰還する」
こうして、片道切符防衛軍の作戦…
AIを見つけ、破壊せよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます