第30話

2人が去った後

「え?明後日、修治達は元の世界に帰っちまうのか?」

残念そうに呟いた風太に、修治が何かを考え込んでいる。

「修治?どうした?お前の空っぽの頭で考えても、何も答えは出せないぞ」

風太がそう言うと、修治はガックリと肩を落として

「風太ちゃん。俺、これでも大学生なんだけど」

と呟いた。

「大学生?大学生ってなんだ?美味いのか?」

きょとんとした顔で聞く風太に、修治は小さく笑う。

「そうだよな。俺達の世界で大切な事が、他の世界で大切な訳じゃない」

そう言うと、修治はそっと風太の頭を撫でる。

そして風太の腕を見て

「あれ?風太ちゃん、何処かでぶつけたのか?」

と、修治は風太に訊ねてみた。

風太の右腕に青い痣が出来ている。

「あぁ!これか?オイラ、ちょっとぶつけると青痣になっちまうんだ。痛くねぇし、しばらく放っておくと直ぐ治るぞ」

笑顔で答えた風太に、修治は記憶を巡らせる。

いつだったか、大学の講義終わりで美咲が恭介の腕に抱き着こうとして腕を払った時、恭介の腕が軽く壁にぶつかった。

するとみるみるうちに青痣になり、美咲が真っ青になって

「すみません!私のせいで!」

と、泣きそうになりながら言うと

「あぁ…気にするな。俺は皮膚が人より薄いらしくて、軽くぶつけただけで青痣になるんだ。放っておけば直ぐ消える」

そう答えていたのを思い出した。

「風太ちゃん!ちょっと、顔をよく見せて!」

修治が風太の頬を両手で挟み、顔をガン見する。

(待てよ!目元とか…教授に似てないか?)

修治がそう考えていると

「修治!顔近い!気持ち悪い!」

と叫んで、風太に逃げられてしまう。

いつだったか、風太と恭介が2人で川遊びをした後、縁側で並んで眠っていた事があった。

「あらあら。疲れて眠っちゃったのね」

空がそう言いながら、そっと風太と恭介にタオルケットを掛けていた。

その時、2人は同じ格好でそっくりな寝顔で眠っていた。その時は美咲と

「コピーみたいだな」

って笑ってたけど…。

もしかして、教授と風太って……。

しかも、その相手が空なのでは無いか?と脳裏を過った。そう考えて、修治の背筋が冷たくなる。

それを美咲が知ったら?

もし空が恭介の相手だったとしたら?

また、美咲は悲しそうに笑うのだろうか?

それとも、2人の為に無理してから元気を装うのだろか?

修治は口元を手で覆い、その場に座り込む。

「どうして美咲ばっかり……」

ぽつりと思わず漏れてしまった本音。

普通の同じ歳の子なら、もっと気軽に恋愛を楽しんでいる。

出会った頃から、美咲は恭介に夢中だった。

「双葉教授!」

いつだって、弾けるような笑顔を恭介に向けていた。

その視線が他に移ることは無い。

それでも美咲から目が離せなくて、友達という位置でそばに居る自分が情けなくなる事もあるけれど…。

それでもあんまりだと、修治は思ってしまった。

せめて、自分達が元の世界へと戻るまでは、美咲にその事がバレないようにしようと修治は決意していた。

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