第21話
「あれあれ?教授、ご機嫌ななめですか?」
イライラして叫んだ恭介の背後から、呑気な声が聞こえて来た。
慌てて振り向くと、修治が籠に栗を沢山入れて歩いていた。
「片桐……」
いつもマイペースな修治に、思わず恭介が苦笑いを浮かべると
「見て下さい。向こうの山に行くと、栗がなってるんですよ。風太君に教えてもらったんですけど、此処って季節が場所によって違うらしいっす」
修治はそう言うと、栗の実を恭介に一つ投げた。恭介は立派な栗の実を見ると
「此処は……今、俺たちがいる場所は、春しなかないんだ。一年中穏やかな、温かい気候の場所なんだよ。夏と秋は山向こうの場所で、冬は大きな川を越えた先になる。この場所は、風太を育てるのに一番適していると言われて大龍神が与えた場所なんだ」
そう答えて、ハッとした。
「へぇ〜、教授。さすが詳しいっすね」
と修治が答えると、激しい頭痛が恭介を襲う。
「教授?どうしたんですか?教授!」
段々と意識が遠くなる。
暗い……真っ暗な記憶の沼に、自分が吸い込まれていくような感覚になっていく。
『大丈夫ですか?』
あの日も、誰かがそう言って声を掛けてくれた。
『恭介さん』
消えそうな記憶の向こうで、誰かが穏やかに微笑んで自分を読んでいる。
遠くなる意識の中、自分を心配そうに呼ぶ修治の声がどんどん遠くなって行く。
長い漆黒の黒髪、この世のものとは思えない程に美しい容姿をした人物を思い出した瞬間、恭介は真っ暗な記憶の渦へと飲み込まれていった。
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