第20話

空は悲しそうに顔を歪ませると

「それが……思い出さない方が良い記憶だとしても……ですか?」

と呟いた。

「それは俺が決める!あんたには分かるか?2年間、自分が何処で何をしていたのかを忘れている人間の気持ちが!」

恭介が叫ぶと

「止めろ!」

と声が聞こえた。

物凄い疾風が恭介を覆い、空の肩を掴んで居た手が離れる。

すると空の前に風太と座敷童子が立ちはだかり

「空をいじめるな!」

そう叫んで恭介を睨んだ。

「風太、違うんだ!」

「何が違うんだよ!空が、悲しそうな顔してるだろう!オイラ、恭介が大好きだけど、空を苛める恭介は大嫌いだ!」

風太が叫ぶと、河原の辺りに風の渦が現れ、恭介は前が見えないほどの風に覆われてしまう。

「風太!ダメ!」

空がそう叫ぶと、風太の身体を抱き締めた。

「風太、怒ってはダメ!それに、恭介様は私を虐めていた訳では無いのよ」

空が風太を宥めるように背中を摩ると、竜巻になりそうな風の渦がゆっくりと消えて行き、恭介を襲っていた強風が静かになった。

「空……本当に?本当に恭介に虐められてなかったのか?」

風太は心配そうに空の顔を見つめる。

「ありがとう、風太。ちょっと話をしていたら、お互いに感情的になってしまっただけだから」

空がそう言って風太の頭を撫でると、風太は恭介を睨んで

「又、空を虐めたら、恭介を嫌いになるからな!」

そう叫ぶと、恭介から空を守るようにして空と手を繋いで家へと歩き出した。

恭介が頭を抱えて近くの大きな岩に腰かけると、座敷童子が悲しそうな顔で恭介を見つめ、ゆっくりと近付くと恭介の手に触れ何度も首を横に振っている。

恭介は力無く笑い

「お前も、俺が記憶を取り戻すのに反対なのか?」

と呟いた。

恭介は此処に来てからずっと、何かが溢れ出しそうなのに、無理矢理堰き止められているような感覚に襲われる。

すると

『恭介……ダメ……。記憶……戻ったら……が……殺されちゃうの』

今にも消えそうな小さな声が頭に響く。

恭介が驚いて座敷童子の顔を見ると、座敷童子も驚いた顔で恭介を見た。

「殺されるって……何だよ。俺が忘れた記憶を取り戻したら、誰かが殺されるのか?」

座敷童子は慌てて恭介から手を離すと、首を横に振って後退りする。

「なぁ!お前等は何を知っていて、何を隠してるんだよ!」

叫んだ恭介の声に弾かれるように、座敷童子も走り去ってしまう。

恭介は頭を抱えて

「何なんだよ!だったら、今すぐ元の世界に戻せよ!」

そう叫んだ。

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