第13話 絡み合う赤い糸

あれから数日が経過して、最初は此処での生活に戸惑っていた3人も次第に慣れて来ていた。

空が井戸から水を汲んでいると

「そ〜らさん。それ、台所に持って行くんでしょう?俺、やりますよ」

修治は空が水汲みや重い荷物を運んでいると、何処からともなく現れて必ず手伝ってくれる。

「空さん、洗い物終わりましたけど。何かお手伝いしましょうか?」

美咲も一人暮らしをしているとかで、家事を手伝ってくれて助かっている。

「ありがとうございます」

微笑んで答えると

「そ〜ら〜!」

と、自分を呼ぶ風太の声が聞こえる。

視線を向けると、恭介とバケツを2人で持って手を振っていた。

3人が来てから、風太は毎日楽しそうにしている。ずっと、この世界では空と座敷童子の3人で過ごしていた風太にとって、恭介達3人が良い刺激になっているようだった。

空は風太に笑顔を浮かべて

「今日はどこに行って来たの?」

と声を掛けた。

「今日はね、恭介と一緒に釣りに行って来たんだ」

そう言って、バケツに入ったヤマメを得意気に見せる。

「いや〜、思ったより魚が釣れて驚きました」

笑顔で語り掛ける恭介に、空は一瞬辛そうな顔をして

「そう……ですか……」

と答えると、視線を風太に戻した。

「見て見て!ヤマメが、1.2.3……いっぱいだ!」

無邪気に笑う風太に、空は優しく微笑み返す。

「では、今夜はヤマメの焼き魚ですね」

空が顔を上げた瞬間、微笑みながら空を見下ろした恭介と顔が近付く。

思ったより間近だった顔に

「あ……すみません」

そう言って慌てて俯く空に、恭介が口を開き掛けると

「教授!魚釣りに行ってたんですか?」

と、美咲が声を掛けて来た。

恭介が美咲に視線を向けると、空はバケツを掴んで

「夕飯の支度……して来ますね」

そう言い残して走り去ってしまった。

恭介は走り去る空の後ろ姿を見つめて、深い溜め息を吐いた。

此処に来てから、他の2人とは親し気にしている空が、自分を避けているように恭介は感じていた。

近付けば遠避ける空が、恭介は気になって仕方なかった。

今まで他人に興味の無かった自分が、何故、空に避けられているのが気になるのかが不思議だった。

今までなら、誰にどう思われようが、どう接しられようが興味が無かった。

他人に対して、自分も興味が無いからだ。

それなのに、何故か空が自分に対してだけ向ける警戒心に納得がいかない自分が居る。

他の人に向ける優しい笑顔も、自分には一切向けられない。

その事に無性にイライラする感情の意味が分からず、恭介自身もそんな自分と空に対して苛立っていた。

そんな気持ちを誤魔化すように、深い溜め息を吐く恭介を、不安な気持ちで美咲は少し離れた場所から見つめていた。

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