第11話

そして空は、祈るように両手を胸の前で握り締めると

「信じてはもらえないかもしれませんが……、此処は、本来ならあなた方人間が来られる場所では無いのです」

そう呟いた。

「はぁ?」

美咲達3人が呆れた顔をすると、空と呼ばれている女性は戸惑いながら

「此処は……龍神の谷なんです」

と呟いたのだ。

「龍神の谷?」

恭介がポツリと呟くと

「はい。大龍神様が本日、明日からの出雲大社での神事に向かう為、本来なら開かないこちらの世界と人間界を塞ぐ扉を開かれました。どうやらあなた方は、大龍神様が旅立たれる為に開いたほんの少しの時間に、こちら側の世界へ迷い込んでしまったようです」

そう空が答えた。

「えぇ!じゃあ、帰れないの?」

美咲が不安そうに呟くと

「1ヶ月後、大龍神様が戻られる時に再び扉が開かれます。その時に、お帰りいただくようになります」

空が申し訳なさそうに答えた。

恭介が考え込んで

「その時まで、元の世界には戻れないんですよね」

と呟くと、美咲もハッとして

「待って!……と言う事は、教授と1ヶ月間ずっと一緒に居られるって事よね?」

そう呟いた。

「美咲、俺も居るよ!」

修治が美咲に手を挙げて主張すると、美咲は修治を無視して

「……という事はよ。学校で一緒に居るよりずっとずっと長い時間、教授と一緒に居られるって事よね?」

と呟いて思いを馳せた。

 それは朝日が差す食卓。

朝食の準備をする美咲に、パジャマ姿の恭介が起きてくる。

「教授、おはようございます」

「おはよう。美味しそうな朝食だな」

「はい、教授の為に頑張って作りました」

「そうか、とても美味しそうだな。でも朝食の前に、俺はきみのその可愛い唇を頂いても良いかな……」

そう囁き、美咲の顎に恭介の指先が触れる。

美咲は頬を赤らめ

「教授……、食事が冷めちゃいます」

と、答えると

「食事より、今はきみが欲しい……」

そう囁いて、そっと腰を抱き寄せる……。

「やだ〜、教授ったら!朝からエッチ!」

そう叫んで、隣に立っている恭介の腕をバシバシと叩いた。

「はぁ?」

そんな美咲を冷めた目で見ている恭介の顔を見て、美咲は慌てて笑って誤魔化す。

そんな2人を見ていた空が、祈るように胸の前で握り締めている手を強く握り締め

「あの……!それで、大変申し訳ないのですが、宿とかは此処にはありませんので、その間は我が家に住んでいただく事になりますが、よろしいですか?」

と、空が申し訳無さそうに3人に提案して来た。

「え!ですが……」

恐縮する恭介に、風太が

「オイラ達の家、でっかいからお前達が来ても平気だぞ!だからお前達は安心してうちに来い」

そう言って、満面の笑みを浮かべた。

恭介は風太の笑顔に小さく微笑み

「では、お言葉に甘えさせて頂きます」

と頭を下げた。

すると、ずっとソワソワしていた美咲が

「あの、私の部屋は教授と一緒が良いです!」

そう叫ぶと、恭介は頭を抱えて

「あの、鍵のある部屋ってありますか?」

と空に聞いて来た。

そんな恭介に、美咲は頬をふくらませて

「ちょっと、教授!なんで鍵のある部屋があるのかを聞くんですか?」

そう文句を言う美咲に、修治が微笑んで

「そんなの、美咲が女の子だから心配だからに決まってるだろう?」

と叫んだ。

しかし、恭介は間髪入れずに

「いや!お前に寝込みを襲われるかもしれないからな!」

と叫んだ。

そんな恭介に、美咲はから笑いしながら

「やだな〜、そんな事しませんよ」

と言って顔を逸らした。

恭介が疑いの眼差しを向けていると、美咲が横を向いて「チッ!」っと舌打ちをしたのを聞いて

「藤野君?今、舌打ちしなかったか?」

と恭介が作り笑顔を浮かべて質問をした。

すると美咲は作り笑顔を浮かべて

「やだな~、気のせいですよ〜!」

そう答えて微笑む。

二人で牽制し合う笑顔を浮かべて睨み合っていると

「でもさ、美咲。着替えどうするんだ?俺は男だからどうにでもなるけど、お前、大変だろう?」

と、修治が話に入って来た。

「え?着替え持って来てるよ」

美咲が鞄を見せて得意気に微笑む。

「え?なんで?」

修治が驚いた顔をすると

「だって、今日は教授の家にお泊まりすつもりだったんだもん」

と言って、頬を染めた。

その様子を見て、恭介は慌てて

「あの!絶対に鍵の着いている部屋にしてもらえますか!」

そう言うと、必死な形相で空に話しかけて来た。

空が2人の様子を見て

「あの……お2人は恋人なんですか?」

と聞くと、美咲は満面の笑顔で

「はい!なので、同室にして下さいね」

と答えて恭介の腕に絡み付いて頬を染めた。

そんな美咲に恭介が慌てて

「生徒です!私は学校で教鞭を取っているので、彼女と彼は私の生徒なんです」

と、必死に空に訴えた。

美咲がそんな恭介に頬を膨らませていると

「空、こいつらずっと『教授〜』ってやってたぞ!」

と、座敷童子に抱き着いて真似をした。

「あ……そうなんですね」

そう答えた空に、恭介は慌てて

「違います!本当に、ただの教師と生徒です!信じて下さい」

と、必死に弁解している。

「教授!そんなに否定しなくても良いじゃないですか!」

頬を膨らませる美咲に

「良くない!生徒に手を出す人間だと思われたくないからな」

そう言って美咲を睨んだ。

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