第7話 紛れ込んでしまった世界

2人の姿が見えなくなると、木々の間にある草むらから子供が2人顔を出した。

「見たか?座敷童子」

年の頃、5歳くらいの青い着物を着た男の子が、おかっぱ頭に赤い着物を着た女の子と手を繋いで現れる。

「今の……人間だったよな?」

男の子はそう言うと、『座敷童子』と呼んでいた女の子に話しかけた。

少女は頷くと

「早くそらに知らせないと…」

と言って、走り出そうとした。

すると森の奥から紫の布に桜の絵が描かれた着物に袴を着た姿で、長い髪の毛をポニーテールにして着物と同じ生地で作られたリボンを付けた女性が現れた。

「風太、座敷童子、何してるの?」

「空!」

空と呼ばれた女性が声を掛けると、2人は声を揃えて彼女の名前を呼んだ。

そして2人がそれぞれ空へ何やら訴えているのだが、2人一斉に話しているので何を言っているのか分からない。

空は屈んで2人の目線の高さになると

「何言ってるか分からないから、1人ずつ話そうか?」

そう話しかけるが、再び2人が一斉に何かを話し始める。

「ん〜…じゃあ、代表で1人が話してくれる?」

優しく空が語りかけると、今度は2人で手を挙げて主張している。

「オラが話す!」

「私が話す!」

言い合いが始まり、喧嘩になりそうになる。

「あ〜!分かったから。じゃあ、ジャンケンで決めよう」

空が提案すると、風太と呼ばれた少年が腕捲りをして

「とうとう、オイラと座敷童子との違いを見せる時が来たようだ!」

とほくそ笑む。

座敷童子も腕まくりをして

「偉そうにしてられるのも今のうちだよ、風太」

そう言って背中合わせにすると、まるで西部劇の打ち合いをするかのよう数歩歩いて振り向くと

「最初はグー!又々グー!いかりや長介中身はパー!正義は勝つ!ジャンケンポン!」

と叫んでジャンケンを始めた。

空は驚いた顔をして

「何、それ?」

と聞くと、風太は得意げに微笑み

「カッコいいだろう?山の狸に教わったんだ。今、人間界で流行ってるらしいぜ!」

そう答えて再び奇妙なジャンケンを始めた。

仲の良い2人は、永遠にあいこを繰り返す。

「ねぇ…まだ?」

呆れた声で話しかけた空を無視してジャンケンを続ける2人。

空は溜め息を吐いて

「そろそろ帰ってご飯の支度しないと、ご飯が遅くなるよ」

空の言葉に、2人は一斉に動きを止めて

「ご飯!」

と叫んだ。

そして風太は鼻の下を人差し指でこすると

「この勝負、お預けだな!」

と言って、手を差し出す空と手を繋ぐ。

座敷童子もあかんべをして、風太とは反対側の空の手を繋ぐ。

3人は仲良く歩き出し

「それにしても、何をそんなに興奮するような事があったの?」

と空が訪ねると

「あ!そうだった。大変なんだよ。人間が、人間がこの森に迷い込んでるんだ!」

と、風太が叫んだ。

空は一瞬、固まって二人の顔を見る。

「え?何て言ったの?」

から笑いして聞いた空に、風太が地団駄を踏んで

「だ~か~ら~!人間が迷い込んでるんだって!」

と叫んだ。

空が驚いた顔をして

「なんでそんな大事な事を先に言わないの!」

そう叫ぶと、2人は手を繋いでいない反対側の手で空を指し

「オイラたちはずっと話してたよ!」

「そうだよ!だから言ったじゃないの!」

と口々に文句を言うと

「話を聞かなかったのは、空じゃないか!」

って、息ピッタリ叫んだ。

空はガックリ肩を落として

「きみたち、そういう時は息ぴったりなのね」

と呟くと

「2人にお願いがあるの」

そう言って繋いだ手を離し、2人並ばせて肩に手を置くと

「迷い込んだ人間を見つけ出してもらっても良い?早く森から出さないと、大変な事になってしまうから」

そう言った。

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