第6話 ハニーハント

 日村は松下を伴い、局長室の扉を叩いた。

 慣れないヒールに足元がおぼつかない松下は始終日村の肩に掴まっている。

「入れ」

 いつもよりも渋い声が入室を許可する。


 柴山が局長机に両肘を乗せて顎の前で手を組んでいる。

『碇ゲンドウかよ』

 松下と机の前まで歩みを進める。

 柴山のメガネの奥では切れ長の眼光が鋭く光っている。

『いつもはメガネ掛けてねぇだろ』

「松下と申します。御忙しい中、このような機会を作っていただき誠にありがとうございます」

 松下が深々と頭を下げると、柴山はカメが頭をもたげるようして胸元を覗き込んだ。

 松下が頭を上げると何事も無かったように繕い、整髪料で整えた髪を指先で気にしてから「事務局長の柴山です」と抑えたトーンで自己紹介を済ませた。

 いつもなら寝ぐせのままでいるし、寄れたシャツを気にもしないくせに今日に限っては糊の利いたシャツを着用して高そうなスーツを着ている。陸連のバッジまで装着している。

『こいつ意識しているな!』

 日村からもインターンシップの時間を設けてもらった感謝の意を述べ、せっかくなので応接室で貴重な局長の話を伺ってはどうかと二の句を続けようとすると、

「せっかくなので隣の応接室でゆっくり話をしよう」と柴山が席を率先して立った。


 柴山は松下の手を取ると動揺する松下に構わずに急ぐようにして応接室へ入って行って扉を閉めた。

 机の前に一人残された日村は応接室の扉を呆然と見つめていたが、不意に開いて柴山が半身を覗かせた。

「お茶とか要らないから、出てくるまで誰も通すなよ」

 と早口で言って指を鳴らし人差し指を日村に向けた。ウインクをその場に残して軽やかに扉は閉められた。その直ぐに鍵の下りる音が続く。

 日村は表情を変えずにゆっくりと中指を立てた。


 松下が皮のソファーに腰かけると直ぐに局長の視線が上に下にと忙しなく動いて視姦しかんしてくる。

 通常の女性ならもちろん嫌悪感をもって対処にあたるところだが、この松下は少し特殊なようでイヤらしい中年男性の粘って伸びるような視線の最中、

『イヤだ、これが女として見れるってことなのぉ♡』と悦に入り始めていた。


 生を受けてこの方、異性から女として求められたことも、女として与えたこともない松下は、隠すことのない強い性の欲に真正面からてられ、呑まれようとしている。


「松下さんは今日はどんな事が知りたいくて来たの?」

 柴山がメガネの奥から松下を真っ直ぐに見て質問し、シャツの襟元から潜り込むように視線をゆっくりと下ろしていく。そして堂々と股の間で視線を止めた。

 それにより松下は紅潮し女として見られる喜びを体で感じていた。ある意味、可憐でも有り、いじらしくもある。

 求めるような口調で潤んだ瞳でお願いしていた。

「きょ局長のことが知りたいですぅ」

 松下は日村に頼まれるままに色仕掛けを仕掛けようとセリフを吐いたが、元来色気とは無縁なところで過ごして来ただけに、その点に関する教養が無い。

 真面目故に事前に勉強してきた教材がいけなかった。

【快楽天】と題されたエロ漫画の展開をそのままトレースしてセリフを吐いている。

 セリフをきっかけに自身がその主人公になったように積極性が支配した。意外にも松下は憑依型であった。

 口に出したセリフで感じたことの無い熱いものが胸に宿り、なぜがそれが股間へとおり下ってゆく。

 タイトなスカートなど履いたことが無い不慣れ感も言い訳に、徐々に股を緩めている自分がいる。


 柴山は鼻の穴を広げて露骨に嬉しそうだ。

「僕のこと?例えばどんなこと」

 棒付きの飴玉を懐から取り出した。回答を待ちながら包み紙を解く。

「なんでも知りたいです」

「なんでもいいの?なら僕にも教えたいことがあるな」

 柴山は飴玉をしゃぶり口の中で大きくコロコロと転がした。

「松下さん、下の名前はなに?」

「な、奈緒なおです」

「奈緒ちゃんか、可愛いね。奈緒ちゃん飴玉舐める?」

 柴山はぽ~と見つめる松下の前へ、さんざんになぶった飴玉をジュッポと口から取り出して掲げた。

 試すように松下の表情を伺うと物欲しそうに小口を開いている。

「たべたい?」と伺うと、浮かされたような表情でコクリと頷いた。


 先ほどよりも口に飴玉を近づける。自分から寄らないと届かない位置で止める。

 無言で焦らし、寄って来るのを待つ。松下がゆっくりゆっくりと口を寄せる。

 松下の口が届く前に柴山が止めた。

「待って。舌で舐めて」

 松下は一瞬おあずけをくらった子供のような切ない表情で赤く染めた頬に乗る潤んだ目で見て、恥ずかしそうに舌を伸ばすと飴玉に触れた。

 チョロチョロと飴玉を舐める松下を瞬きもせずに小柴が見つめる。

 メガネを外した。


 気が付くと、飴玉と柴山の距離も短くなってきている。

 巧みに飴玉を移動させ、松下を寄せつつ自分も近づいていく。

 その間松下は柴山の瞳に求められるままに舌の動きを増していく。


 二本の舌が一つの飴玉を競う合うように舐めている。

 奪い合うようの押し合い、求めあうように絡まり、そして飴玉はお互いの口内を甘ったるい唾液と共の行き来し始めた。


 松下は柴山を背もたれにする形で座っている。

 もはや柴山の言うことに身を任せている。飴玉は松下の口に押し込まれている。


 さきほど柴山の視線が潜り込んだ胸元には、後ろから右手が差し込まれている。

 ブラの上から中身を探るように指が動き、ときより生地の上から乳頭を掻く、触れられるだけで声が漏れそうになる。飴玉の芯を噛んで耐えた。

 探るように優しかった指が突然荒々しさをむき出しに、ブラをはぎ取る。

 獲物を見つけた猛獣のように乳房に襲い掛かると何もかもをむちゃくちゃにするように揉みしだいた。

 溜まらず声が漏れ、溜まった唾液が口角からだらしなく流れた。


 ストッキングを撫でていた左手は徐々に陰部へ登り始めている。ガーターに指を差し入れ、指が旋回しながらももの肉感を楽しんで行く。

 股関節の腱を渡って陰部に達する。

 熟れた桃肉には触れない。其の脇を行ったり来たり、摘まんだりともてあそぶと

 松下がたまらずに「は、はやく、、ぅ」と懇願する。

 合図を聞いて獲物を狙って集まった左手の猛獣が次々に桃肉に群がる。

 押し開かれた肉ひだは指に弾かれ捩りながら愛液を垂れ流していく。

 柴山は松下の耳に口を寄せ、指先の動きに合わせて耳の中で唾液の音を発てる。

 それはまるで、指になぶられイヤらしい音を発てる陰部がすぐそこに有るように鳴った。

 松下の口から嗚咽と吐息が漏れる。

「わたぁ わたしぃ っ ははっはじめてなんでずぅっ っあ」

「大丈夫だよ、気持ち良い以外は何も無いから」



 日村の調査は空振りに終わった。IT管理から聞いた柴山のPCパスワードを使用してメールの中身やPCフォルダーを探ったが不正の証拠は出てこなかった。

 先日スポーツ用品の営業が置いていった封筒の中身はただの手帳に過ぎなかった。

 副会長には現時点では柴山は白だと報告するしかない。

 15分程で調査は終わった。応接室の扉に目をやる。

『松下頑張ってくれてるんだろうな、20分ってお願いしちゃったからな』


 時間を潰す為にTVを点ける。

 チャンネルをザッピングして暫くすると二人が出て来た。


 柴山はベルトをガチャガチャと締めながら歩いてくる。

 頭髪が乱れている。

「どや専心何か出て来たか?」

「な!え?なにがっすか」

 不意な質問に上手く返せずにどもる。

『こいつ気づいてたのか!しかもなんで関西弁なんだよ』

「どうだったぁ松下!」

 慌てて松下へ話題を移す。

「あぁ、沢山教えてもらいました♡」

 髪を直しながら女の顔をしている。

 『え?なんで?』

 松下が柴山に腕を組む、

「局長、今度局長が現役選手のときの話聞かせてくださいねぇ♡」

 柴山が松下に小声で耳打ちする。

「その話は長くなるから今度ゆっくりベットの中でしてあげる」

「もうっ♡」

『えーーー!』


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