後日談 第36話 プロポーズ編①あの日、きみが告白してくれた場所で

 ある晴れた遊園地日和。

 俺は、高校一年のときから付き合っている白咲灯花さんにプロポーズをする。


 彼女との出会いは、大好きな従姉に誘われたアイス屋でバイトしていたときのこと。常連だった彼女と俺は少しずつ話をする間柄になって、ある日、しつこいナンパに遭っていた彼女を助けたことがきっかけだった。


 それから紆余曲折あって、俺は白咲さん――灯花と付き合うことになって。

 二十歳を過ぎた今でも、俺は彼女のことが大好きだ。


 今日、俺は、その彼女にプロポーズをします。


 通い慣れたデデニーランドも、今はまるで違う場所に見えてきて、どんなアトラクションに乗っても、灯花が今日も可愛いという感想と、『万が一があったらどうしよう』という感想しか出てこない。


 万が一、というのは、もしプロポーズに断られたら?という恐れだ。

 この緊張を絶対に無いと言い切れる男は、この世にいないのではないだろうか。

 勝率100%? ふざけんな。そんなものはこの世にないんだよ。


 大好き、といくら言われても自信なんか……


「ゆきくん? さっきからどうしたの? 顔色が悪いよ」


「え? ああ、ちょっと連勤続きで久しぶりの休みだから、疲れが出ちゃったのかな……」


 なんて。本当は連勤などでなく、灯花へ渡す指輪を選ぶのに駆け回っていただけだ。

 そんな、サプライズのための些細な嘘すら胸が痛む。

 俺は、それくらいに灯花のことが大好きだった。


 隠し事なんて何もしたくない。


 だから、コインロッカーに隠した花束をいつ取り出そうかそわそわとして手汗冷や汗がヤバいだけなんだよ。決して体調不良ではない。


 そんな俺のことすら真剣に心配してくれる、優しい彼女が大好きだ。


 結局指輪は、可憐な灯花のイメージに合う、ティファニーにした。これはあくまで個人的な見解で、繊細な銀の指輪が似合いそうだなぁ、なんて。もし気に入られなくても、そのときは結婚指輪を買い直すからいいんだ……って。

 そんな妄想すらもOK前提な自分はどれだけ自信満々なんだって――自信があるのかないのか、頭の中は、そんな矛盾めいた事態になっている。


 でも、あの日、彼女が勇気を出して告白してくれたこの場所で。どうしても俺の気持ちを伝えたかったんだ。


 夜の街灯に照らされた湾は、まるで空をひっくり返したみたいな鮮やかさで。水面に映る灯りは花のように煌めいて。そのほとりで、俺は彼女と見つめ合った。


 一緒にいると、心に花を灯してくれるような、彼女。


「灯花……」


「なぁに? ゆきくん」


「俺、パティシエの学校を卒業したら、パリで修行しようと思っているんだ。次のコンテストの審査員として参加するパティスリーの本店がパリにあって、もし優勝したら、そこで修行することが許される」


「そうなんだ! そのコンテストって、たしか綾乃ちゃんも出るやつだよね? ふふっ。私、どっちを応援したらいいのか迷っちゃう! でも、パリかぁ……」


「灯花が親御さんと進路相談している学校も、パリだよね?」


「……え? あれ? 私、言ってたっけ?」


「ごめん。リビングにある資料を、たまたま見かけてしまったことがあって。フランス語で書いてあったから、どこの大学院なのか気になって……」


 俺は、白魚のような灯花の指先を、両手で握りしめた。


「最初は、『行かないで』って思った。離れ離れになるのは寂しいって。でも違う。俺の勝手な気持ちで灯花の未来を望んだものとは違う方向に捻じ曲げたくない。だから、俺がついていくことにしたんだ」


「ゆき、くん……」


「次のコンテスト、絶対に優勝するから。そうしたら、俺と一緒にパリに行こう。いや……ついてきて下さい」


 そうして、俺は用意していた花束と指輪を手渡した。


「俺と、結婚してください」


 その告白に、灯花は、薄っすらと瞳に涙を浮かべ。


「はい……!」


 と頷いたのだった。


 俺はその華奢な身体を抱きしめて、「ありがとう」と小さく呟く。


 ああ、もう後戻りできないな。


 覚悟しておけよ、坂巻。


 俺、絶対に負けないから。




※あとがき

いつも作品をお読みくださる方々、本当にありがとうございます。

ここのところ体調を崩したり、コンテスト用の執筆に忙しかったりと、更新が滞ってしまい申し訳ないです。

今でも作品をフォローしてくださる皆さま、感想をお寄せくださる皆さまには感謝しかありません。いつもありがとうございます。とても励みになっております。


今回から今作もプロポーズ編に突入し、いよいよ後日談が大詰めとなってきました。

この冬のカクヨムコンテストには、今作を意識した、複数ヒロインによる微ハーレムな部活ものラブコメを投稿しようと思っています。12月になりましたら、続話の末尾あとがきにて宣伝させていただきたいと思っていますので、そちらも是非お楽しみいただけると嬉しいです。


あとは、すっかり更新が止まってしまっているラブコメ色強めな異世界ファンタジー、『ヤンデレ侍、好きにて候』↓(https://kakuyomu.jp/works/16817139557458791437

をコンテストに合わせて完結させたいなと考えています。

もしご興味ありましたら、そちらもあわせて応援してくださると嬉しいです。


 すっかり更新がおそくなってしまいましたが、今後は、完結に至るまでの後日談、坂巻との決着、その後を描いた『プロポーズ編』と、百合ifにあたる『荻野×加賀美さん編』をのんびりと書いていけたらなぁと思っているので、今後ともお付き合いいただけましたら幸いです。

 是非、よろしくお願いいたします!

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