後日談 第28話
最近、後輩ができたんだ。
佐渡は快活そうに見えるけど裏表が激しくて、ちょっとメンタルが不安定な子。
一方で東雲は、昔の俺を見ているような陰キャだ。
でも、俺にとってはどちらも可愛い後輩で、初めてのバイトに一生懸命なところがなんだか似ているなって思ったり……
それが微笑ましくて、嬉しくて。俺が入りたての頃、むつ姉もこんな気持ちだったのかなって思うと胸があたたかくなって……
「なぁ、東雲はどうしてこのバイトしようと思ったんだ?」
俺の指導のもと、クレープ作りの練習に励む東雲に声をかける。
クレープ生地にアイスを乗せて、満足そうに「できた……!」と呟く東雲は、問いかけに驚いて、せっかく上手にできたクレープをぐしゃ、と握りつぶしてしまった。
「あああっ……!」
「はは、元から練習用に作ってたやつだから気にすんなって。……ん! 美味い! 上手にできてるじゃん。チョコの量とかはばっちりだ」
「せ、先輩!? そんな濡れ雑巾みたいにべしゃべしゃになったクレープが美味しいわけないですよ! 僕が責任とって食べますからぁ……!」
はわわ、と慌てる様子がなんだか可愛い。
にこにこしながらふたりしてクレープを食べていると、東雲は口の端にクリームをつけたまま呟く。
「……モテたかったんです」
「へ――?」
「このアイス屋でバイトをしたらくそモテるって風の噂で聞いて……」
「ははは! なんだそりゃ! 初耳!」
「……入ってからわかりましたよ。人がモテるのって、きっかけはどうあれやっぱり人間性なんだなぁって」
「へぇ、思うところでもあったのか?」
問いかけると、東雲は俺をちらり、と見てからクレープにかじりつく。
「佐渡ですよ。あいつ、あんなに可愛いのに中身は残念極まりないじゃないですか。メンヘラだし、裏表激しいし、ビッチだし……」
「佐渡はビッチじゃないよ。見た目と言動がそれっぽいだけ。だって、俺が着替えてるのに遭遇したら顔真っ赤にして、慌ててカーテン閉めたもん。上裸くらいで初心だよなぁ」
「そうなんだ、意外……てか、真壁先輩は気にせず着替えすぎなんですよ」
「ごめん。反省してる」
「……ほんとか?」と愚痴っぽく逸らした視線がどこか懐かしい。
にしても、東雲がそんな理由でバイトを始めたっていうのは初耳だ。
つい、老婆心が疼く。
「東雲はさぁ……なんでモテたいの?」
「へ? だって、男たるもの一度や二度のモテ期は経験したいっていうか……とにかく誰かに好かれたいって思うのはフツーじゃないんですか?」
「でも、どれだけモテたって、最後に選べるのはひとりだぞ? だったらモテなくていいじゃん」
「……あ。そっか」
「そうそう。『少しでも長く、この人と一緒にいたいなぁ』って人に会って、一緒にいられたら――それでいいと、俺は思ってるけどな」
とか、惚気まじりの先輩風を吹かせたところで。何の説得力もないことはわかってる。誰が誰を好きになって、どうなりたいと思うかは人それぞれだから。
俺は、荻野や坂巻、皆に教わったことを少しでも還元出来たらいいなと思って、東雲の肩を叩く。
「まぁ、悩みがあるなら俺に言えよ。先輩として、話聞くくらいならいくらでもしてやるし。服装とかのコーディネートなら荻野にお任せだし。東雲だってほら、この分厚い前髪……
「どうしたんですか、先輩? まさか、ボクのブサさに絶句して……?」
「……いや。むしろ逆っていうか……あれ? 東雲って……男、だよな?」
「何いってんですか。僕は男ですよ。頭沸いてんですか?」
「……いや。にしては、睫毛長くない? 線も細いし、非力だし……」
「あはは! その言葉、そっくりそのままお返しします!」
「……荻野の奴、何考えてんだ……?」
「??」
俺は深いため息を吐いて、カウンターにうずくまる。
……確証はない。けど、確かめようもない。それに、本人がここまで思い込んでるっていうのも、家庭の事情とかでもない限りどうにも難しいし、藪蛇な気しかしない。今までどうやって学校生活送ってたんだ……?
「東雲、あのさぁ……」
「なんですか?」
きょとんとした瞳に、「ち〇こ見たことある?」とは聞けない。
「う、うぅぅ……!」
「真壁先輩?」
「こ、困ったことあったら、なんでも俺に言えよ!!!!」
そう言い切って、俺は強引に逃げた。
ちらりと胸元を見るも――少なくとも胸だけでは判断できないくらいに、発育がよろしくない。
でも……多分……
東雲、女の子だと思うんだけど……?
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