後日談 24話
「そういや、加賀美さんとはどーなったの?」
問いかけに、荻野はきょとんと目を丸くした。
なぜか、ほんのりと頬を染めながら。
「べ、別に、真壁にはカンケーないし……」
「それはそうだけど、やっぱり気になるっていうか……」
仮にも加賀美さんを好きだった者として、彼女には幸せになって欲しいからさぁ。
結局あれから二年以上が経つけれど、その思いだけは変わっていなかった。
報われて欲しいとか、くっついて欲しいとか、そういうことでなく。ただ、加賀美さんには笑っていて欲しい。
俺の視線は、嫌というほどそう語っていたのだろう。荻野は小さくため息を吐き、「っとに、そういうとこだよなぁ。加賀美っちも、どーして真壁でなくあたしなんかを好きになったかね」とこぼす。
「加賀美っちとは、告白されてから友達になって、今でも半年に一回温泉に行く仲だよ。こないだは遠路はるばる山形の銀山まで行ったっけ~。あそこはよかったなぁ!」
「温泉?」
「そう。温泉。加賀美っちはほら、いいトコのお嬢さんでしょ? 将来的には稼業を継ぐとしても『社会勉強は必要』ってんで、大学では経営を学びつつ、塾講師のバイトをしてるんだ。んで、ゲットしたバイト代であたしと温泉旅行に行くのが生きがいなんだとか」
「温泉、旅行……」
いいなぁ。
脳内でかぽーん、という桶の音が響き、女ふたり湯けむりに包まれるのが目に浮かぶ。
あれ? でも待てよ。
それって泊まりじゃん。
でもって荻野はバイじゃん?
「……荻野、お前まさか……!」
加賀美さんに手を出して――!?
だが、視線が投げかける問いに荻野は答えなかった。多分だけど、意図的に無視された。なかったことにされた。
「……まぁいいよ。(肉体関係)アリ友でも、ナシ友でも。どうせ荻野のことだから、無理強いなんてしないだろうし」
「おっ。案外信用されてる?」
「加賀美さんの
「んふふっ。嬉しいこと言ってくれるねぇ?」
「でも、安心したよ。変にぎくしゃくしたり、拗れたりしてないみたいでよかった」
加賀美さんが幸せそうで、よかった。
「考えてもみてよ。生まれも育ちも全然違う、共通の話題もなーんもないあたしと加賀美っちが、なんのしがらみもなく足湯に浸かって温泉まんじゅうを食べられる。延々と、どーでもいいことで笑っていられる。これってもはや奇跡だし、親友以上の何かじゃね?」
その光景を思い描いて、思わず頬を緩ませると、荻野は楽しそうにピースサインを向けてくる。
「これから十年先も、二十年先も。あたし達はなんかの拍子に思い出したようにメールして、会って、温泉に行く。ふたりともおばあちゃんになるまでさ。これってサイコーの関係じゃない?」
「だな」
「こういうのに順番つけるのはどーかと思うけど、加賀美っちは今じゃあ二番目の親友だから!」
(ああ、あのVサインは2って意味だったのか)
「……ちなみに一番は?」
「真壁!!」
にひっ♪ と笑う荻野のことが、俺も大好きだ。
「荻野、ありがとう。俺と親友でいてくれて。加賀美さんのことも、その……ありがとな」
正直に告げると、荻野は頬を染めて固まる。
そんな顔すんなって。こっちまで恥ずかしくなってくるじゃんか……
「卒業しても、ずっと親友でいてくれる……か?」
言葉に出さないと伝わらないこともある。
尋ねると、荻野は眩しいくらいに破顔した。
「あたぼうよ! ……て、改めて口にすると恥ずかしいね。あはは、なんか
「ん。ああ、それか。俺は、ホワイトデーをテーマにしようかと思ってる。ホワイトデーってさ、想いを伝えてくれた人にお返しをするイベントだろ?」
「んあー、確かに。タラシの真壁にはぴったりだな。つまり、灯花ちゃんへの想いを形にしようってこと?」
「別にタラシじゃないってば……灯花ももちろんだけど、俺はそのケーキで、荻野や坂巻、むつ姉に対しても想いを伝えたいと思っているんだ。最近のバレンタインは友チョコとかも主流だし、ホワイトデーだって、相手は恋人じゃなくてもいいと思ってさ」
「ふーん、なるほどねぇ。で、真壁の伝えたい想いって何よ?」
によによと期待するような蒼い瞳。
俺は、「内緒」と鼻を鳴らしてはぐらかした。
言わなくても、ケーキを一目みたら『想い』がわかるような。そんなケーキになることを期待してくれ、とだけ言っておく。
「楽しみ〜♪」と鼻歌混じりに着替えだし、タイムカードをきる荻野。
その背に、俺は、数年分の想いを膨らませる。
(坂巻もがんばってるみたいだし、俺も帰ったらコンテスト用の作品を練らないとな)
「じゃあ、俺はもうあがりだから。荻野、バイトがんばって」
「ほーい。おつかれ〜!」
あの頃からなにひとつ変わらない、爽やかな笑顔。その優しさに甘えて、あの頃は色んな相談に乗ってもらったっけ。
荻野がいたから、今の俺があるともいえるんだよなぁ……
(荻野……)
俺が伝えたい想いは、『ありがとう』だよ。
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