後日談 20話 最高の祝福をキミに

 綾乃ちゃんが次に出すコンクールの作品は、『ウエディングケーキ』だ。


 そのモチーフは、真壁と灯花ちゃん。


 あたしはケーキ作りのこととかデザイン関係とかよくわからないけど、真壁のことを好きな人同士、綾乃ちゃんがどういう気持ちでそれに取り組んでるのかは少しくらいならわかるつもりだ。


 色々と、思うところはあると思う。

 いつもはヘタれてるけど、いざタキシードを羽織った真壁はかっこいいんだろうな、とか。

 どうして自分はその隣にいれないんだろう、とか。

 ケーキ入刀するときは、きっと花嫁さんの手を包むようにして支えてくれるんだろうな、とか。

 デコレーションが綺麗すぎたら、困ったように笑って入刀するのに躊躇してそう〜、とか。

 色々、ほんと色々考えてるんだろうなぁ。


 もちろんそれらも推測の域を出なくて、正確な綾乃ちゃんの気持ちはわからないけれど。

 でも、人生のすべてをかけたような想いのこもった作品ができる。それだけは間違いがない。


『あたしはこれで優勝して、自分の店たてて。真壁と灯花ちゃんをサイッコーのカタチで祝福したい』


 綾乃ちゃんがそう決めたんだ、あたしがバラすわけにはいかない。


(綾乃ちゃんは色々考えた結果、そこに落ち着いたんだ……)


 この、貞操観念の崩壊した男1女3のシェアハウス。

 最初の方は、「真壁とひとつ屋根の下ラッキ~♪」くらいにしか思っていなかったけど、一緒に暮らせば暮らすほどに、真壁と灯花ちゃんがラブいことに気がつく。

 あれはもう新婚だよ。書類出してないだけでさぁ。

 しかもどっちかっつーと、真壁が主夫ね。


 灯花ちゃんは、真壁が好きなことできるように養えるように、すっごい資格勉強してるし、真壁もそれを応援してる。将来はすっげー企業に就職して女社長とかになっちゃうんだろうなぁ。

 あの構図がマジ羨ましいし、地道に努力してきた結果好きな人と結ばれて幸せ街道まっしぐらな灯花ちゃんを、あたしは同じ女として尊敬してる。


 でもって、つけ入る隙がどーのこーのとか考える以前に、灯花ちゃんが聖人すぎて可愛すぎてマジ天使で。自分だって忙しいのに朝帰りのあたしに野菜スープとか作ってくれちゃうようないい子でさぁ。

 だからもう、横取りとかNTRとか、考えるだけであたしは灰になるんだ。多分、綾乃ちゃんもそうだったんだと思う。

 そしたらもう、祝福するしかないっつーね。


 灯花ちゃんは、至高のお嫁さんとして。

 あたしは、至高の友達として。

 綾乃ちゃんは、至高の同僚として。


 各々、真壁と幸せな関係を築いていくんだ。


(あ~あ。あんたが羨ましいよ、真壁……)


 そんな風に色んな子から愛されて、その愛を真摯に返してくれるあんたが――


 ねぇ。真壁が食事当番のとき、本当は隠してるみたいだけど。あたしや綾乃ちゃん、灯花ちゃんが疲れてそうだとさ、その日の夕飯にはその子の好きなメニューが出てくるの、あたし知ってるんだからね。

 実際、「あたしこれ好き!」って言ったら、真壁なんて言ったか覚えてる?


 『元気のないときに好物を手作りしてもらえるのって、嬉しいよな?』って……

 幸せそうな視線の先にいたのは、灯花ちゃんだった。


 きっと、真壁が昔してもらって嬉しかったことを、あたしたちにもしてくれてるんだろうなっ思ったら、もう……


(……ほんと好き)


「なぁ教えろよ、荻野~」


 ……なんて。深夜テンションで絡んでくる真壁がくそ可愛くてくそ懐かしくて、うっかり口を滑らせそうになるけど、我慢。我慢。


「荻野? 聞いてる? 話聞いてる? えっ。無視しないで」


(ん~~!! この、元・陰キャ(今もか?)特有の『親友にだけウザく絡む』このムーブ……あたしはキライじゃないよ。むしろ好き! あたしにだけ気を許してるっぽくて好きなんだよねぇ……!)


「お~ぎ~の~?」


「あああ! これ以上はもたん!! おやすみ真壁っ! また明日!」


「あっ。ちょっと、話は……!?」


「綾乃ちゃんならダイジョーブ!! 心身共に健全健康っ! あたしが保証するっ!! じゃねっ!」


 そう言って、荻野は嵐のように去ってしまった。


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