番外編if むつ姉と『おねえちゃん』呼び

※むつ姉ルートifです。


「ねぇ、ゆっきぃ。『おねえちゃん』って、呼んでみて?」


 ソファで俺の膝に仰向けに寝転がるむつ姉は、唐突に上目遣いを向けてきた。

 付き合いはじめてからというもの、むつ姉がこうして甘え散らかしてくれるのは正直嬉しいし、ごろごろと俺の太腿に頬を寄せる様子は到底年上とは思えない。

 もっと言うと懐っこい猫にしか見えないっていうか、あっ。一瞬、猫耳むつ姉を想像してしまった。イイ。すごくイイ……今度つけてもらおうかな、猫耳……


「ゆっきぃ、聞いてる?」


「え? ああ、うん。『おねえちゃん』って呼ぶんだっけ?」


 懐かしいな。出会って間もない三歳くらいの頃は『むつ姉』でなく、『おねえちゃん』とか『おねーたん』などと呼んでいたような気がする。

 とはいえ、俺ももう高一だし、むつ姉はいまや恋人だし……


「なに、姉弟プレイ? だったら『おねえちゃん』よりも『ねえさん』の方が自然なんじゃない?」


 尋ねると、むつ姉はむすーっと頬を膨らませる。


「今ね、ちっちゃい頃の写真をスマホに入れたのを見返してたんだけどぉ」


「なにそのデータ。俺も欲しい」


 顔を寄せてむつ姉のスマホを覗き込むと、そこには5歳の俺と10歳のむつ姉、10歳の俺と15歳のむつ姉など。多種多様なツーショットの思い出が詰まっていた。


「わっ、この屋上遊園地なつかしい。乗り物が全部古くてガタガタなやつ……」


「ゆっきぃ、ここのパンダさん乗るの好きだったよねぇ。見てほら、パンダさんの上でにこにこピースなゆっきぃ、かぁわぃぃいい……!」


「ちょっ、照れるじゃんやめて。それを言うなら、その後ろで手を振ってるむつ姉の方が可愛いよ。十歳っていうと小四くらいか? この時点ですっげぇ美少女……やば……」


「美少女って――(照)私、そんなんじゃないよぉ」


「えっ。なに言ってんの、意味わかんない。むつ姉が美少女じゃなかったら、いったい世界で誰が美少女なんだよ、出てこいよ。来るわけないでしょ? だからむつ姉は確定美少女」


「うぇえ~? わけわかんないのはゆっきぃの方だよ~! 日本語しゃべって〜!」


 膝上で「わぁん!」とわざとらしい悲鳴をあげるむつ姉が今日もくそ可愛い。

 ごろんごろんと照れて身をよじる度に、あたたかな感触が膝の上を転げまわって……

 そんなむつ姉と、夕食のあとに膝枕でイチャイチャしているという幸福が込み上げる。


 だから俺は、楽しそうに膝枕されるむつ姉に、ふと声をかけた。いかにも自然に、それっぽく。


「好きだよ……『おねえちゃん』」


「……!?」


 瞬間。むつ姉は膝の上から飛びあがった。

 「はわわ……♡」と頬を真っ赤に染めて、口がぱくぱくとしている。


「驚きすぎ。『言って』って言ったの、むつ姉じゃん?」


「で、でも……今のは不意打ちすぎるっていうか……!」


(そっちこそ、デレ度Maxな赤面顔の上目遣いが百点満点すぎるって……!)


 お返しパンチをくらって赤面する俺に、むつ姉は豊満な胸をそっと押し付けて、首筋に腕を回した。


「ゆっきぃ……もう一回♡」


「……『おねえちゃん』」


「もっと」


「六美おねえちゃん……」


「……ん。ゆっきぃ、私も大好き……♡」


 すりすり、と甘えるように頬ずりをしてくる。

 身体を密着させて、耳に息がかかる距離で何度も何度も「好きだよ」と囁くむつ姉。


(やば……むつ姉、完全にスイッチ入っちゃったな……)


 とはいえ、そうこうしているうちに俺にもスイッチが入るわけで。

 お返しとばかりに耳音で囁き、そっと抱きしめる。


「むつみ、おねえちゃん……」


「なに?」


 あの頃好きだったむつ姉と、こうして恋人同士になれるなんて。

 夢みたいだよ……


「おねえちゃん……」


「なぁに?」


「おねえちゃん……」


「んふふ♡ なぁ~に?」


 蕩けた綿菓子みたいに甘い声……


(ああもう、ダメだ……)


 俺は、むつ姉をソファに押し倒した。


(ああ。結局こうなる……)


 何を話していても、どんなことをしていても。先に我慢できなくなるのは大抵俺なんだ。むつ姉は、いわゆる誘い受け――人をその気にさせるのがうますぎる……


「おねえちゃん……しても、いい?」


「ふふっ。その呼び方だと、イケナイことしてる感がすごいね?」


「!」


 にんまりと、どこか意地悪に。それでいて満足そうに「いいよ」と囁くむつ姉が……


 今日もエロすぎる……

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