後日談 17話 水着回
「……あたし、真壁のこと諦めて、結婚した方がいいのかな?」
問いかけに、荻野はさらりと銀髪をこぼして笑った。
「それこそ、綾乃ちゃんの自由だよ」
「…………強いね、涼子ちゃんは」
荻野はもう、決めている。
今後自分がどうするべきか、いや、どうしたいのかを。
『一緒にいたい』。
そのために、生きると決めているんだ。
(あたしだって、できるなら……)
――真壁と、ずっと一緒にいたい。
きっと灯花ちゃんは、あたしや涼子ちゃんを邪魔だなんて微塵も思わないだろう。
そうして涼子ちゃんは、もし真壁と灯花ちゃんが結婚して子どもができたら、それこそ自分の子どものように可愛がるんだろう。
……自分には、それができるだろうか。
「…………」
(ん~……漠然とだけど、やっぱり自分の子どもは欲しいし、でも相手は好きな人がいいしぃ……でも真壁には灯花ちゃんがいるからダメだしぃ……)
「んんん……んあぁ~!」
頭を抱える坂巻に、荻野はぽつりと呟く。
「……六美さん、真壁のこと好きだったっぽいんだよね」
「……へ?」
「で。ああいう選択をした。身を引いたんだよ。真壁が灯花ちゃんと憂いなく幸せになるために」
思いがけない話題に、坂巻は目を見開いて固まった。
「え。それ……お兄ちゃん、清矢さんは知ってるの?」
「つか、兄貴から聞いたんだ。『傍で見てればわかるよ』って言ってた」
「それ……いいの?」
「いいも悪いも、好きな気持ちに噓なんてつけない。でも、兄貴は六美さんを愛してるし、六美さんだって兄貴のことを愛してくれる。六美さんはただ、あたしと同じように、真壁とは一緒にいたいだけなんだ。お姉ちゃんとして。だから……兄貴にとっても真壁は『特別』。六美さんを笑顔にしてくれる仲間のひとりなんだってさ。つか、そう思うことにしたんだって」
「うへぇ……懐広すぎん?」
「そう思った方が自分と折り合いつけられるってこともあるでしょう。一種の昇華……とはちょっと違うけど。自分も六美さんも笑顔でいられるならそれでいい、『世界で最高の二番目』なんだってさ。強いよな」
「つよ……」
「だからあたしも、兄貴みたいに強くなりたいんだ」
ふわ、と目元を緩めて真壁を見守る荻野。その蒼がプールの蒼を反射して、それはまるで、水中から光さす水面に向かって手を伸ばしているときのような美しさだった。でも……水中からでは、光に手が届くことはない。
「涼子ちゃんは……それでいいんだ?」
「うん。あたしは……あの光の傍に居られればいい。それで幸せ」
「……ありがと」
「ん?」
礼を述べられるようなことをしたかと、荻野は首を傾げる。
坂巻はどこかふっきれたような顔をして、荻野の手を引いた。
「あたしたちも、遊びにいこう! あれ! 変な浮き輪のって写真撮りたい!」
あと数年。せめて学校を卒業するまでは、この光の中にいたい。
そうして、いつか自分もきっと、新しい光を見つける……
そうして。
(あたしが、無理せず真壁のそばにいる方法は……)
多分、アレしかない。
※急に思い立って短編を書きました。すぐに完結(できるはず)予定です。
ご興味あれば感想や★レビューなど、いただけると嬉しいです。
ぜひよろしくお願いします!
『十年ぶりに好きだった子とデートしたら、知らない間に結婚してて子どもまでいた件』
https://kakuyomu.jp/works/16817330649634579292
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