後日談 16話 水着回
白ビキニでたゆんなむつ姉……控えめに言って最高が過ぎる……
俺は、周囲から浴びせられる羨望の視線になんともいえない心地になりつつ注意する。
「むつ姉、プールサイドは走っちゃダメでしょ。もう、子どもじゃないんだから……」
「だって、ゆっきぃとプールなんて何年ぶり? ゆっきぃが中学生になってからは行ってくれなくなっちゃったし、五年ぶりくらいじゃない? 思わずはしゃいじゃって……ごめんね♪」
てへぺろ、と舌を出すむつ姉の相変わらずの可愛さよ……
ほんとにOLか? 信じらんねぇ~~!
俺は、思っていたより数倍嬉しそうなむつ姉に口元を綻ばせつつ、はぐれないようにと差し出された手を握った。
「灯花ちゃん来れないの、残念だったね~……」
「『代わりに思いきり楽しんできてくださいね。あと写真も!』って言われたよ。だから今日は灯花の分まで楽しもう」
「うん……!」
「でも、もう走っちゃダメだよ。遠慮がちでも、小走りでもね」
「わかってるよぉ~……マナー違反でした。ごめんなさい」
しゅーんと俯くむつ姉に、数年前は自分が注意される側だったことを思い出して懐かしくなる。
「とにかく、走るのはダメだから」
だって。色々、揺れるし。
そんな俺たちを、スタイリッシュな黒ビキニ姿の荻野がプールサイドチェアに寝そべり、残念そうに眺めている。
「あ~……六美さんの胸揉みたかったぁ……ここが公共の場じゃなければなぁ。ねぇ綾乃ちゃん、ちょっと揉ませてよ」
「は?? 涼子ちゃんてさ、ほんと節操ないよね。つか自由人。前から思ってたんだけどさぁ、涼子ちゃんてレズなの? バイなの? はい、ジュース」
「ん~、バイだよ。可愛い子はみ~んな好き。だから綾乃ちゃんも好き」
「はいはい、わかってます~。その『好き』は友達への『好き』ってこともね。どうせ本命はあのふたりなんでしょう?」
「あはっ!バレた。とか言いつつ、フツーに接してくれる綾乃ちゃん優しすぎじゃね?」
「別に。友達なんだしフツーっしょ。バイだからって態度変える方がおかしい」
「うわサイコ~!!」
「でも、胸は揉ませないからね」
「ん~ケチ。まぁいっか、今日は四人一室で泊まりだし。お楽しみはそのときで」
「は?? 人の話聞いてた?? てかさぁ、びっくりだよね。『女子会お泊りプラン』に、男も泊まれるの」
「最近はLGBTには細やかな気配りが求められる世の中だからねぇ。身体が男でも心は女子……な人への配慮でしょ。下手に断ればホテル側が炎上する。だから真壁も女子会に参加できる」
「楽しみ~♪」
坂巻は胸元のリボンを弄るフリをして、花柄ビキニのカップをひっそりと直した。
いくら九割が女子の場でも、ポロリはアウトだ。それを見た荻野が『……デカ』と呟く。
「……やっぱ、胸はある方が華があるよね」
自身の胸元を見下ろす荻野は、珍しくしょんもりと落ち込んでいた。
坂巻は、手にしたトロピカルジュースを置いて、楽しそうにフロートに乗って水しぶきをあげる真壁と六美さんを見る。
(あれでカップルじゃないとか……世の中どーなってんの??)
とまぁ、それはさておき。
「……あのふたりは、そういうの気にしないと思うけど」
「だよねぇ」
「つか、ふたりとも彼氏彼女持ちじゃん。このままいけば、多分結婚する。涼子ちゃん的にはさぁ、どうなるのが最善?」
「参考までに、聞かせて」と言う坂巻も、自身の気持ちの落としどころを探しているようだった。
その問いに、荻野はぼやーっと、真壁と六美を見つめる。
「……一緒にいたい。あたしは結婚しなくてもいーから、エッチなこともできなくてもいーから、いつまでもふたりの仲良しでいたい」
「即答できんだ。すごいね」
「いやウソついた。エッチなことも、たまにはしたいです。許可さえもらえれば、ちょっと……いやすごくシたいとは思ってます」
「……ソコ重要?」
「バカ。重要でしょ。なに? 綾乃ちゃんは案外プラトニックラヴァーなの? ちなみに、六美さんに関しては兄貴から許可は出てるんだよねぇ……」
「うそぉ」
「『六美さんが嫌がらないならいい』って。『六美さんは俺のものじゃない。心も身体もあくまで六美さんのものだから。でもって涼子は特別。あと真壁くんも。他はイヤ』ってさぁ。でも、あたしは今の、こうやって皆で気軽に遊びにくる関係も好きなのよ。いくら六美さんがお触りに寛容でもさぁ、やっぱり本番――手を出すのには勇気がいるわけ」
「……ちなみに真壁は?」
「ハグキスくらいならしたいかな。セッ――はさすがに、灯花ちゃんのいる前じゃないと……」
「いる前ならイイの!?」
「そういうプレイだと思って」
「んああ……涼子ちゃんと話してると、あたしのナニカが壊れそう……! でも正直羨ましい……! そーいう考え方できんのも、実際デキそうなのも……!」
「じゃあ綾乃ちゃんもすればいいじゃん」
「そーいうところがさぁ……!! 羨ましいし、『ちょっと待って』ってなるんだよ!?」
「ん~……難しい性格してるね。めんどくせ~女」
「あたしは結構マトモっつーか、一般的な方だと思うけど!?」
チェアに寝そべり盛り上がるふたりは、もはやナイトプールどころではなくなっていた。思わず椅子から上体を起こした坂巻が、思考を冷やそうと飲み物に手を伸ばす。
「……ごめん言い過ぎた」
「は? なんで綾乃ちゃんが謝るの?」
「マトモって何だよって話。誰が誰を好きになったって、どうしたい、どうなりたいって思ったって。思う分には自由でしょって話だよ。それを一般的とかそうじゃないとか、何かで括ろうとするあたしがダメだったなぁと思って。こんなんだから、あたしも真壁に対してどう接するのが正解なのかわかんないんだよ……あ~、もう! 自分の頭がカチコチすぎてイヤんなる!!」
「まぁ~、世間一般の同調圧力とかモラルとか。育った環境もあるしねぇ。基本的にはあたしの方がイレギュラーって認識で間違いはないと思うよ。でも、そういう檻を抜け出した今のあたしは楽しい! それは間違いない!」
隣で「あはは!」と爽やかに笑う荻野が、強くて、羨ましくて。
坂巻は問いかける。
「……あたし、真壁のこと諦めて、結婚した方がいいのかな?」
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