後日談 15話 水着回
ケーキや菓子を扱うパティシエ専門学校に通う俺や坂巻にとって、十、十一月から年末年始にかけての怒涛の課題はもはや殺人的なものに近かった。なにせ世間はハロウィンやらクリスマスやらで、菓子やケーキ的な意味で大盛り上がりをみせる
やれ『気になるお店のリサーチと報告』やら『独創的なハロウィン菓子』やらの制作課題がひと段落した俺と坂巻は、一足早く和室に出したこたつに潜り込み、机にへばりついて視線だけを合わせる。
「「つら……」」
死んだ魚の目をしたふたりが、同時に呟く。
すると、午前中だけで大学を終えた荻野が颯爽とリビングに現れた。
「ただいまぁ~! ……って。うわ。お通夜かよ」
「「…………」」
ふたりとも昨日まで二徹していたせいで、まともに返事する気力すらない……
そんな俺たちを見て、荻野が。
「ねぇ……プール行きたくね?」
「え?」
「は?」
こんな時期に? もう十二月間近だぞ。
こちとらハロウィンがひと段落して、次は怒涛のクリスマスかぁと束の間の休息に浸っていたというのに。
「え。涼子ちゃん、なんで急に?」
「……つか、寒くね? プール」
「ぶはっ! 外なわけないじゃん! 室内プールだよ、室内プール! こういうときってさぁ、こたつでアイスとか、寒いのに室内プールとか、矛盾した贅の尽くし方をしたくならない? いいストレス発散になると思うんだけど~?」
そう言って、空いているこたつの一画に腰をおろす。
相変わらず荻野の感性はよくわかんないけど、人生楽しそうなことだけはなんかわかる。おかげで、一緒にいるとこっちも楽しい。
でも今回は……
「ストレス発散? プールで? 俺はならないと思う……てか、少しでいいから休ませてくれ」
「それだけは同意……」
「ふたりともツレなーい! じゃあ、週末でいいよ。週末行こう! 灯花ちゃんも誘ってさぁ」
「あ。灯花なら今週末は実家だよ。なんでも、お祖父様が会いに来るんだとか(ひ孫の顔早く見せろって)」
「家族行事かぁ~。残念! 灯花ちゃんの水着、見たかったのに。真壁もそう思わん?」
「んぁ~。俺は見慣れてるから、別に?」
「謎のマウントやめろしwwww」
「つかノロケ?」
「しょうがないなぁ、じゃあ真壁は来るのやめる? あ~、六美さんも来る(絶対来させる)のになぁ~! 本当に残念だなぁ~!」
その一言に、俺は固まった。
「……は? なにそれ」
むつ姉くるの? 聞いてない。
「六美さんの白ビキニ姿を拝めるのはあたしだけかぁ~! はぁ~。独り占めしちゃおっかなぁ! 『なにあの巨乳美女~!』って羨望の視線が突き刺さるのが超気持ちイイんだろうなぁ~!! うははははは! 真壁は坂巻ちゃんと家でふたりきり。イチャコラでもしてなよぉ」
「いや。イチャコラはしないし。俺は浮気しないし」
「え。しないの? イチャコラ」
……なんだよ、坂巻。こっち見るな。
するわけないだろ。しないよ、イチャコラ。
だからそんな、捨てられた子猫みたいな顔すんなぁぁ……!
「だったらあたしもプール行こっかな。真壁が構ってくれないなら、家にいる意味ないし」
(へ……? ちょ、待っ――)
「ほいキタ! 美女一名追加~! 女三人だし、ナイトプールでも行っちゃう~? 泊りで女子会~!」
(ナイトプール……!?)
って、あの。キラッキラした女子が集まる謎の映え空間……?
俺は思わず、どきりと冷や汗をかく。
「でも、そういうとこって……女子目当てのクズチャラ男とかも来るんじゃないの? パリピとか……」
「あ~、なに? ひょっとして真壁、心配してくれてんのぉ? それともアレ? なんやかんやであたしや涼子ちゃんがナンパされたり男についてったらモヤっとするタイプ?」
「ヒュ~! 独占欲~! 彼女いるくせに欲張り坊主め!」
「バッ、ちが……! 俺はただ純粋に、友達として心配して――! だって、お前らふたりとむつ姉でプールなんて、絶対ナンパされるじゃん!!」
「「なんでぇ?」」
うずうずとしたふたりの瞳に、俺は思わず押し黙る。
だが、あまりに期待に満ちた視線が見つめるものだから、つい「坂巻も荻野も、ほら……可愛いし……」ともにょつくと、ふたりは満足そうに腹を抱えて笑った。
「あはは! 真壁が照れてる! 可愛い~!」
「言わせてごめ~ん!」
(う。ふたりしてからかいやがって……ああ、恥ずい……)
「ん~、行ったことないから知らないけど、自撮りメインの女子が多いっていうからナンパ目的もそれなりにいるんじゃん? まぁ、会場にはそういうの取り締まる警備員さんもいるとは思うけどさぁ。……あ。心配だからボディーガードに兄貴連れて行こうかな! 兄貴といると、なんか人の波割れるし」
……モーセかな? でも、確かに夏祭りのときはそうだったよなぁ。
「え。涼子ちゃんのお兄ちゃんって……あの超イケメンの? それ、逆に女子に囲まれちゃって動けなくならない~?」
「ん~……言われてみれば? ナイトプールじゃ女装も無理だしなぁ……」
チラッ、チラ。と、荻野の蒼い目が俺を見ている……
「ああ~! わかった、わかったよぉ! 俺も行くよ。行けばいいんだろぉ!?」
「そうこなくっちゃ!」
◇
……ということで、週末。
秋でもやっている穴場というナイトプールに来てみると、俺の目の前には水着の美少女ふたりと……
「あ。ゆっきぃ、こっちこっち~! 一緒に貝の
と、手を振って掛けてくる白ビキニ姿のむつ姉がいた。
「むつ姉、危ないから走っちゃダメだよ……!」
なにがとは言わないけど、めっちゃ揺れるから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます