ルート分岐(?) バッドドリーム・デッドエンド①

※このお話は、本編49話後(荻野にセフレでいいよ発言された後、本命に告白前)のお話になります。

【予め宣言します、夢オチです。】

しかし、主人公が浮気や二股など一般的なモラルに反する行いを(リアルな夢の中で)しているため、そういうのが苦手な方は回れ右でお願いします。あくまで余興としてお楽しみください。

どこからが夢かは、ご想像にお任せいたします。


 ◇◇◇


 七月某日。俺はアイス屋の同僚、荻野にファーストキスを奪われました。

 しかも、「六美さんと真壁のことが本気で好きだ」と謎の告白をされ、「なんなら二番目、セフレでもいいよ」とまで言われて。唇には未だに、キスの感触とダイキュリーアイスの苦い甘味が残っているようで……

 寝室でひとり天井を見つめ、唇にそっと触れる。


(柔らかかった、な……)


 そりゃそうか。キスだもん。当たり前だ。


 俺は、つい数時間前の、友達……同僚とのやり取りを思い出す。


(女友達だと……思ってたのにな……)


 ◆


「あたしは、真壁が好き。なんなら二番目、三番目でもいい。あたしは真壁と、ずっと仲良しでいられればそれでいいから……」


 俺を長椅子に押し倒し跨る荻野は、再び覆いかぶさって……


「でもあたし、真壁とシたいなぁ……。互いキライじゃないんなら、ちょっとくらい……ダメ?」


 いや。いやいや……


「ダメ? じゃないだろ。だってそれって、セフ……」


「セフレ♡」


(!?)


 にんまりと、暗室に浮かぶ悪魔のような笑み。

 その蒼い瞳は、ダメなはずなのに、どうしても目が逸らさないくらいに綺麗で……


「真壁はさぁ、加賀美さんが本命なんでしょ? でも、いまのところ脈もないし告ってうまくいくビジョンもない」


「……!」


「だったらさぁ。加賀美さんと付き合うまででいいよ。私とそういう関係になろ?」


「いや、ダメだって……」


 否定しようとする俺にかぶせるようにして、荻野は声を強める。


「じゃあさぁ。あたしのこの気持ちはどうしたらいいのかな?」


「……?」


「我ながら面倒な女だとは思うよ。真壁には好きな人がいるってはっきりわかってるのに、諦めきれないんだ。往生際がサイテーサイアク。でもさ、恋って一度火がついちゃうと、導火線みたいなものなんだ。もうね、爆発するか鎮火するしかないの。でも、鎮火したあとには必ず焦げが残る。あたしはこの焦げを、真壁と繋がることで少しでもいいから楽にしたい……たとえそれが、短い期間だとしても」


「荻野……」


「真壁……お願い。あたしのこと、キライなわけじゃないんでしょ? あたしって、女としてそんなに魅力ないかな……?」


 そう言って、荻野はするりと俺の胸元を撫でた。


 ああ、この目だ。

 『好き』で溢れるこの瞳。

 この息。この気持ち……


 熱くて、アイスじゃなくても溶けそうになる。


「そもそもさぁ、浮気とか二股ダメとかって、モラルとか世間が勝手に言ってるだけでしょう? 結婚してないなら法的効力もない。個人間の気持ちの問題じゃん。だったら、あたしと真壁、もしくはその他の子がお互い納得した上でならいいんじゃないの?」


「それ、は……でも、そんな子いるのかな? 二股されてもいいから俺と付き合いたいだなんて……」


 まっすぐに見下ろされる瞳から目を逸らす。すると、荻野はべったりと胸元に張り付いて、無理矢理に顔を覗き込むように笑みを浮かべた。


「ばぁ〜か。ここにいんじゃん?」


「……!」


「あたしは真壁を束縛しない。これはあたしの我儘で、強欲なあたしが悪いだけ。他の子になにかアプローチされても正直に話していいし、その気があるなら二股しても勿論いい。だから、お願い……友達以上の繋がりを、あたしにちょーだい?」


 『ねぇ……』


 と吸い込まれた息が、再び俺の唇を塞いだ。


 あたたかくて柔らかくて、思考が真っ白に染め上げられていく。白なのか、銀なのかはわからない。

 ただ、俺の目の前には、荻野しかいなかった。


 呆然と、否定することもできずにキスを何度も受け入れる。


「真壁……その気になってきた?」


 ふふっ!と笑うのは、ついさっきまで友達だと思っていた……


「お、荻野……待って、息できない……」


「ははっ! ごめ〜ん! じゃあ、次はもっと優しくするね?」


 ああ。ダメだ。

 もうダメだ。


「ねぇ。このあと、真壁の家行ってもいーい?」


「…………」


「ふふっ。……イイみたいだね?」


 荻野はにんまりと微笑み、身体を起こして右手を差し出した。押し倒されていた俺は、起こされるようにソレに掴まる。

 そうして……


「これからよろしくね。マイXXXボーイフレンド♡」


 鈍い照明をさらりと反射する銀髪が綺麗すぎて。

 俺は、顔を熱くしたまま頷くことしかできなかった。




(つづく)


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