後日談 14話 メイドカフェ

 誰が想像しただろう。

 まさか、人生初のポッキーゲームをメイド喫茶で彼女にしてもらうことになるとは。

 ちなみに今の俺を過去の俺(年齢=彼女いない歴)が見れば、「くそリア充め」と吐き捨ててぶち殺してやりたくなると思う。

 実際、男性客の九割が俺にそういった視線を向けていた。

 でも――


「はい。ゆきくんは、私としよ?」


 そう言って灯花がポッキーを咥えて目を瞑るから、俺には齧る以外の選択肢なんてないわけで。

 それを、今しがたメイドさんとわー!きゃー!言いながらポッキーし終えたソフィアちゃんがスマホを手にわくわくと見守っている。


「ふたりは恋人同士なんですから、ディープなやつでもいいですよ!(わくわく)」


「……いや。それ撮ってどうすんの。頼むからネットに流すとかやめてよね」


「しませんよ! ただの記念! 灯花さんに撮影頼まれたんです! ささ、早くぅ!」


「んむ。ゆきくん、はやくぅ……」


 「チョコ溶けちゃうよぉ」と視線で訴える灯花が……くそかわ!!


(でも、これまで何度もキスしたことあるのにいまさらポッキーゲームなんて。ぶっちゃけ、唇ついちゃっても問題ないもんなぁ……)


 とか。思っていた俺がバカだった。


 ポキ。

 と一口端を噛む。


 最初は「ふーん、こういう感じね」とか大したことのない感想を抱いていたのだが。


 ポキ、ポキ。と食べ進めるたびに近づいて来る唇、呼吸。

 ときおりチラ、と合う視線が心拍数をあげていく。


 三度目に目が合うと、灯花は「んふ♡」なんて楽しそうに笑うし、それがかえって気恥ずかしくて……


(なんだこれ! ドキドキがやばい……!)


「ん。んむ……!」


 ポキ、ポキ。


 思わず躊躇っていると、今度は灯花が食べ進めてきた!


 ポキ、ポキと顔が音ともに近づいてきて……


(あ――つく。ついちゃう……!)


 キスしちゃう……!!


 ぎゅう、と目を瞑るとパキッ! と小気味よくポッキーが折れて……


「……んふ。美味しかったね♡」


 と。メイド服姿の彼女が笑った。


 イタズラっぽく、名残惜しそうに唇に残ったチョコを舌で舐めて……


「…………」


 くそエロ。


(なんだこれなんだこれなんだこれ……!)


 ポッキーゲームってアレだろ?

 中高生が修学旅行とか王様ゲームとかで、わーきゃー盛り上がってキスしちゃったりしなかったり、いわゆる一種の遊び。余興みたいなもんで……


 正直。こんなんだと思ってなかった。


 やばい。コレは……外で彼女とするもんじゃ、ない……


「ねぇ、もういいでしょう。家帰ろうよ。奢るから」


 そそくさと伝票を手にするも、ふたりは「え~。せっかく来たのにぃ?」とまだ遊び足りないようで。


「幸村さん、どうしてそんなに急いでるんです?」


「そうだよ、もうちょっと遊んでいこうよ。私、まだゆきくんのオムライスに『美味しくな~れ』してないよ?」


「いや、だって、その……」


 今すぐ家帰って灯花抱きたいし。


「あ。幸村さんて歌うまいんですよね? ここカラオケあるんです。せっかくだから一曲歌ってくださいよぉ!」


「そうだよぉ。ゆきくんは歌うまいんだよぉ。なにせ……」


 灯花は何を思ったか、俺にこしょっと耳打ちをする。


『歌うまい人は、セックス上手なんだって。喉とか声帯……身体のコントロールが上手ってことだから』


(……!?!?)


「本当だよね、ゆきくん♪」


 ふふっ。と谷間を寄せて、灯花は囁いた。


(ああ。あああ……あああああ……)


 せっかくメイドカフェ来たのに。


 早く家帰りてぇ。

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