後日談 13話

「ねぇ、ゆきくん。どんなのがいいかなぁ?」


「えっ。灯花着てくれる――着るの??」


「だって、せっかく来たし。ウチの学校は進学校で文化祭も質素だったから、こういうのちょっとやってみたいなぁって……ゆきくんは、乗り気じゃない?」


「いや。いい。全然いい」


 今この瞬間、猛烈に。俄然楽しくなってきたところだよ。


 秋葉原で遠縁(?)の妹に付き合ってメイドカフェに入るつもりが、彼女のメイド服姿を拝めることになろうとは。

 俺って、日頃の行い良すぎなんじゃない?


「じゃあ行きましょう、灯花さん!」


 うきうきとふたりしてメイドカフェに入っていくソフィアちゃんと灯花。

 俺は、脳内で無限のメイド服候補を思考するあまりに足が止まってしまっていた。

 ハッと、思い出したように口を開く。


「灯花……その、他のお客さんもいるしさ、あんまり露出度が高いのは――」


「ミニじゃないメイド服とか、邪道ですよ!! せっかくイイもの持ってるんです、灯花さんは胸元どーん! でいきましょう!」


「うるさいぞオタク! そっちの方が邪道だって気づけ!」


「ふふっ。ゆきくん、楽しそう……!」


「あ~……もう……!!」


 ふたりに引き摺られるようにして入ったメイドカフェは、思ったよりも簡素な造りで文化祭の延長のような雰囲気だった。室内にいくつかの椅子とテーブルが用意され、奥のカウンターからメイドさんが飲み物などを運んできてくれる仕組みだ。


 オプション料金を払えば、そのメイドさんたちとじゃんけんゲームやカラオケ、写真撮影などができ……

 って。気付いたら興味津々でメニュー表をガン見している自分がいた。


 灯花やソフィアちゃんが着替え終わるまで座席にひとり……

 朝一の開店と同時に来たせいか店内はまだ空いているし、ぶっちゃけ恥ずい……ってか。シュールだな。

 カップルでこういうところに来る客は珍しいみたいだし、店員さんもひそひそおれのこと見てる気がするし、落ち着かない。

 我に返ってそわそわと店内を見回していると、奥の更衣室から金髪ツインテのメイド服JKが姿をあらわした。


「颯爽登場っ!! メイド服美少女ソフィアちゃん!!」


 きらん☆と目元でピースサインし、ノリノリが過ぎる。

 ソフィアちゃんて人見知りな方かと思ってたんだけど、楽しくなると我を忘れるタイプのオタクだったっぽい。あとになって黒歴史量産するやつだ。


「いや。可愛いんだけどさぁ。自分で美少女って言うの、どうかと思うよ?」


「幸村さんノリわるぅ~い!」


「はいはい。可愛い可愛い。じゃあ写真撮るよ。ポーズして~」


 頼まれていたとおりにソフィアちゃんのスマホを構えると、わたた! と慌ててキメ顔をつくる様子がくそ可愛い。うん。こういう自然な表情の方が、俺は可愛いと思うな。


 しばしふたりして撮影会に興じていると、奥からカーテンの開く音がして、スタッフさんがなにやら「おおぉ……」とどよめいている。

 すると、カツコツと慣れない靴音を鳴らして、極短なスカートの裾を抑えながら灯花が出てきた。胸元の御開帳具合とボリュームに、周囲の客も息を飲む。


「……お待たせ、ゆきくん……」


 かぁぁ……と赤くなった彼女が。

 今日も究極に可愛い……


 いつもは小悪魔的な仕草や発言で俺を翻弄する灯花が。

 恥ずかしそうに、人並みに頬を染めて――


 瞬間。どくん、と胸が痛くなる。

 呼吸が浅くなって、息が吸いづらくなって――


「か、わ……」


「あれ? ゆきくん?」


「……ッ!? はぁ……はぁ……息の吸い方忘れてた……死ぬとこだった……」


 人間って、究極に可愛いものに出会ったとき、下手をすると死ぬんだな。

 でも、灯花は俺が喜んだのだとわかると嬉しそうに隣の席に腰を掛け、ふわりと天使の笑みを浮かべた。


「えへへ……似合う?」


「似合う。可愛すぎる。もう持ち帰りたい」


「ゆきくんに喜んでもらえて、よかったぁ……!」


 そう言って、灯花は懐かしい笑みを浮かべた。

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