後日談 12話

 家に入った瞬間。

 ソフィアちゃんはスリッパを投げ出して和室にべたりと張りついた。


「おおう、これがジャパニーズ畳ぃ……! イグサ、イグサの香りがするっ!!」


「えっ。京都住んでるのに、畳に馴染みないの?」


 ソフィアちゃんも大概だが、それこそ偏見か。

 ちなみにこの角度だとパンツはもろ見えだが、俺には耐性があるので(以下省略


 灯花が飲み物を用意していくれている間に、LINE以外では話したことのないソフィアちゃんとの会話に花を咲かせる。


 ソフィアちゃんは和室がよほど気に入ったのか、ごろりと大の字になって足をパタパタさせている。高校生にしてはあどけないように思うし、完全にウチに馴染んでしまっているが、変に緊張されるよりはいいか。


「すみません、はしゃいじゃって。母が京都支部に配属になったのもつい数年前の話ですし、住んでいるのは完全フローリングのマンションなので。和室って嬉しくて……」


 ソフィアちゃんは、金髪ツインテの毛先をくるんと弄って、恥ずかしそうに頬を染める。


「いいよ。存分に楽しんで。数年前――にしては、日本語上手くない?」


「それは私がオタクだから――こほんっ、なんでもありません。しばらくはこちらに滞在させていただこうかと。この和室……使ってもいいですか?」


「へっ?」


 おい、待て。数日泊まるとは聞いていたが、って……どれくらい?


「母には、オンライン仲間フレンドの友人の家にワーキングホリデー感覚で住まわせてもらうと説明しています。そうでもしないと、一生アキバを堪能し尽くすことなんてできなかったでしょうから。私、一生に一度でいいからメイドカフェで働きたいんです!」


 え~……それって、軽く見積もって一か月以上あるやつだよねぇ?

 しかもメイドカフェでバイトって……物見遊山のバイト雇うほど、世の中甘くないと思うけど……いや。待て。金髪碧眼ツインテでこの美貌だから、一発採用か。

 客引きだけでも効果絶大だよなぁ……あ。余計に心配になってきた。


「ワーキングホリデー感覚って……さすがに無理があるんじゃ?」


「無理を通して道理を蹴っ飛ばす。私の好きなアニメの神台詞です」


「おっ、俺それ知らない……」


「はぁ〜? それでも日本人ですかぁ?」


 ソフィアちゃんは畳から起き上がるとやれやれといったように肩をすくめる。

 そうこうしているうちに灯花がお茶を淹れてくれて、ソフィアちゃんは「茶柱立ってますかぁ!?」なんてはしゃいじゃって……


(妹、か……)


 坂巻(義妹)はともかく。きっと年下の妹がいたらこんな感じなんだろうな、と思った。


  ◇


 それから俺たちは、約束どおり三人で秋葉原に向かうこととなった。

 うきうきと目を輝かせるソフィアちゃんを挟むように電車に座り、予めチェックしていたというメイドカフェへと足を向ける。


「なんとここ、メイド服の貸し出しサービスがあるんです!!」


(!)


「あのフリフリを、生の本場で楽しめる日が来るなんて……! あ~楽しみです!」


「へぇ、奥に更衣室があって、レンタルしたメイド服を着て仲間うちで楽しんでもいいし、メイドさんとポッキーゲームしてもいいし……え? ポッキーゲーム?」


「メイドさんと! したいです!!」


 ……随分と寛容、もといサービス精神旺盛なメイドカフェなようだ。

 ポッキーゲームは一部のスタッフ、対象が女性客限定のサービスらしいけど、いったいいくらのオプション料金を取られることになるのか……


「しかもタダ!」


「タダ!?」


 ……多分。そのスタッフさんが単に女の子好きなんだろうなぁ……荻野みたいに。

 だが、そうなると俺も楽しみだ。

 せっかくの機会だし、可愛い美少女同士のポッキーゲームをありがたく拝ませてもらおうか――などと考えていると。灯花がくい、と袖を引く。


「私も着ようかな……? メイド服……」


(……!)


 ちら、と見上げる上目遣いが。

 俺に「どんなやつがいいか選んでね」と、言っていた。

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