後日談 9話

 帰ってきたら、ゆきくんの部屋で綾乃ちゃんとゆきくんが仲良く寝てました。


「!!!!」


「綾乃ちゃ~ん♡ やるぅ♡」


 パシャ。と、まずは静音カメラで一枚。

 わたしのゆきくんフォルダに、また一枚可愛い寝顔が♡


「まっ――待っ、待っ! これにはわけが……!」


 綾乃ちゃんはというと、まるで浮気現場でも見られたみたいに、両手を振って慌てちゃって。ん~、私が言うのもナンだけど、それってフツーゆきくんの反応じゃない?


 当のゆきくんは――


 ――寝てる。


 可愛い♡


「別に、腕枕くらいじゃあ怒ったりしないよぉ~」


「はっ――!? 灯花ちゃん……マジ?」


「マジマジ♪ じゃあ、私は左腕使っちゃおう~」


 私は上着のカーディガンを脱いでベッドに寝転び、空いている方のゆきくんの腕に頭を乗せた。


「ふふふっ。パティシエ学校に入ったせいか、力仕事が増えてなんだか少し逞しくなったかも?」


「あ。ソレね。あたしも思った」


「ふぁ……ゆきくん♡」


「ちょっと……ヘンな声ださないで……!?」


「綾乃ちゃん、顔赤くなってるよ」


「~~~~っ!」


 とか騒いでいたら。さすがにゆきくんが起きた。


「ん……? ……あ。灯花、おかえり……」


「ただいま♡」


 そこまで言って、ゆきくんは何かに気づいたらしい。


「…………あっ。こ、これは……」


「怒ってないよ。ただの腕枕だもんね? 綾乃ちゃんにお願いされたんでしょう?」


「え? あ、うん」


「それよりさぁ、今日のお夕飯なにがいい? 私、当番だから。ゆきくんの好きなもの作りたい。一緒に買い物行こう? 綾乃ちゃんも」


「へっ――? あたしも……!?」


「うん♡ みんなで行こう」


 だって、こういうので気まずくなって皆で暮らすのが楽しくなくなるのもヤだし。

 でも綾乃ちゃんは、ゆきくんのことがまだ好きだから……我慢させすぎちゃうのも可哀想だなぁって。


 別に同情とかじゃないの。

 もし自分が逆の立場だったらって考えると……


 今は偶然、私がゆきくんと付き合えているけれど、それって、運命の悪戯っていうか、偶然の積み重ねっていうか……

 ゆきくんは、ちょっと(かなり)押しに弱くて、こんなに優しくて素敵な人なんだもん。きっと私以外の子からも愛されて、恋人になる道がたくさんあったと思うの。


 だから……


 ついつい、許しちゃう。


 綾乃ちゃんのことも、涼子ちゃんのことも、六美さんのことも……


 あと単純に。

 女の子に迫られて困ったり、たじたじになるゆきくんが可愛いなぁって。


 付き合って三年で、ゆきくんは私に慣れてしまったのか、赤くなる機会も減ってきちゃったし……

 これって、実はwinwinなの。


「ねぇ、ゆきくん。今日は珍しく寒いから、皆でお鍋しようよ」


「……! 鍋……イイ!」


「綾乃ちゃんは何鍋が好き~?」


「あ、あたしは……豚バラと白菜のミルフィーユ鍋とか、キムチ鍋とか……?」


「俺は俄然水炊き」


「ゆきくんいつも水炊き~。たまには別のにしようよぉ!」


「灯花が『俺の好きなもの作りたい』って言ったのに……?」


「お鍋となったら話は別~」


「理不尽か……?」


「あはは! 真壁ってば、灯花ちゃんには敵わないね~!」


 みんなで、声を揃えて笑う。


 ――そう。


 私はこの瞬間が好きだから。


 ちょっとくらいは許しちゃうんだもん。


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