後日談 5話 あたしも混ぜてください
「あたしと、する……?」
問いかけに、綾乃ちゃんがぎょっと目を見開いて固まる。
脳裏には、肌と唇を合わせて恍惚とした表情で、隣室の物音に耳を澄ませながら慰めあう綾乃ちゃんとあたしの姿が目に浮かぶ。
六美さんほどではないけれど、綾乃ちゃんはおっぱいだって大きいし、照れ屋なだけのツン気味美少女だし、睦み合うには文句ないどころか、ありがとうしか浮かばない。
そんな綾乃ちゃんは目の前で、動揺に目を見開きながら奥底に隠した熱と欲……現実から、一生懸命に目を逸らそうとしているようだ。
(別に、性欲隠さなくてもいいのに。恥ずかしがり屋さんめ)
これは思わず、口角が上がってしまうよねぇ。
「ふふっ。どうする……?」
「へっ――? ふぇっ……? 涼子ちゃん、なに言って……」
するりと手を握ると、わずかだけど、怯えたようにビクついた。
ああ。この反応は――『ナシ』か。
あたしは、手のひらを返したように、ひそひそ声で笑い転げた。
「あっははは! 冗談だよ! 悪ノリが過ぎたね、ごめん!」
「あっ、あぅ……そ、そっか。冗談……だよね?」
「だよ、だよ!」
ちらっちらと、安堵したように伺う視線がいちいちくそ可愛い。
ん~! 六美さんには敵わないけど、綾乃ちゃんもやっぱ可愛いなぁ!
返答的にはNGな感じだったけど、そこまでドン引きされてもいない。頬を染めて、誘われたこと自体にはまんざらでもなさそうな……
……日を改めて、もう一押しって感じだな。
あたしはいまだに真壁と六美さんが一番好きだけど、うまいこといってイチャつけることになったときにさぁ、周りに可愛い子が何人いたっていいじゃない? だって、きっとその方が盛り上が――
「……なにしてんの?」
(やばっ……!)
真壁が部屋から出てきた。
あたしと綾乃ちゃんは、同時に肩をびくつかせて、背後を室内灯に照らされた真壁の方を見る。
すると、一瞬きょとんとした真壁の瞳が、次第にジト目に変わっていった。
「……立ち聞き。しかもふたりして。荻野の差し金か?」
「ちが……! あたしは狙ってやったけど、綾乃ちゃんはたまたま聞こえちゃっただけで――! 綾乃ちゃんは悪くなくて……!」
正直にそう言うと、綾乃ちゃんは庇われたのに驚いたように目を丸くする。
一方で真壁は、「……悪趣味。とか言ったところで、止められるようなもんでもないか」と、諦めたように首のうしろを掻いた。
だぼっとしたTシャツの下の、わずかに汗ばんだ素肌が、いましがたの光景を彷彿とさせてくそエロい。ちょっとだけでいいよ、その鎖骨、吸わせてくれたりしないかな……?
おまけに。立ち聞きの罪(一応、ちょっと悪いとは思ってた)を「仕方ないな」で済ます優しさ、器のデカさ……!
改めて、くそ惚れる……!
「……ごめん。やっぱ嫌だった? つか、普通に考えたらイヤだよね? ごめんね。あたしもやりすぎた。もうしないから……」
そう思ってるのは、本当。
今日はなんていうか、その……やっぱり……
初日だし。好きだからこそ、興味っていうか、欲に負けちゃったっていうか……
多分、綾乃ちゃんもそうなんだと思う。
さっきから、顔を真っ赤にしたまま「涼子ちゃんだけが悪いんじゃない! あたしだって、事故とはいえつい聞き入っちゃって――! ごめんなさいっ!」って。
ベージュの髪をパジャマに垂らす勢いで謝っているんだもん。
「「真壁……怒ってる?」」
ふたりして伺うように上目で問いかけると、真壁は部屋にいる灯花ちゃんの方を見て。
「……灯花が気にしないなら、俺も気にしない」
とか言い放った……!
「えっ……許してくれんの?」
ウソでしょ?
「え? うん。別に減るもんでもないし。つか、荻野だし。しょうがないでしょ。坂巻は、その……ちょっと意外だったけど……」
マジか。
(てゆーか、『つか、荻野だし』って、何……!?)
『荻野だから、そういうこともあるよなぁ』的な?
その、あたしの全てを受け止めてくれているかのような発言に、あたしは脳内で萌え悶え転がる。
(はぁぁああ……!? 器デカすぎ夫婦かこら~!?)
あたしは、スライディングで土下座キメる勢いで、真壁の膝に縋りついた。
「うぁあああ! 好きですっ! ふたりとも大好きですっ! お願いだから抱いてくださいぃぃ~~!!」
「は??」
「あっ、ずるい! あたしもっ! 混ざるならあたしも混ざりたいっ……!」
「は???? 坂巻まで、なに言って――」
「不肖、荻野を! 何卒おふたりのハーレムに加えさせてください~~!」
もはや呆れたような真壁は、室内でくすくすと楽しそうに笑う灯花ちゃんを横目に、やれやれ顔で呟く。
「はぁ……ウチはいつから、貞操観念崩壊シェアハウスになったんだ?」
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