△△編③

 ◇


 家から数駅先にある、比較的お手頃な遊園地で、チュロスを片手にベンチに腰かける。

 すると荻野は、あるファンション系のネット記事を見せてきて。


「ねぇ、今度これしよーよ。シミラールック」


「ふぅん……なにそれ?」


 差し出されたスマホを見ると、そこには男女のモデルさんが映っていて、ふたりともなにかしらが描かれた白のTシャツに、黒のパンツという飾らないスタイルだった。

 ちょっと似てる。でも全部が同じじゃない。

 いわく、それがシミラールックという、ペアルックよりもハードルの低いカップルコーデなんだとか。


「ほんのりお揃い。真壁としたい!」


「ああ、これくらいなら俺にもできるかな」


 そう答えると、にこりと笑う荻野が可愛い。


 前よりも少しだけ、特別な意味での距離感が近くなった荻野と共に、遊園地を遊び尽くす。

 こうしてみると、仲の良かった女友達が恋人になるのって、最高だなぁ。


 「これが好きだから」という理由で、同じアトラクションに連続で何回も乗ったり、


「今月服とアクセ買い過ぎた」

「課金した」

「「お金ない」」


 と言っては、夕飯はチュロスとラーメンをシェアするだけで終わったり。そんな自然で気兼ねのないムードもくそもないデートが、なんだか楽しくてたまらない。


 白咲さんとの、お洒落でキラキラとした遊園地デートも楽しかったが、これはこれでまた違う良さがある。

 いや、そういう良さをわかって共有できること自体が、すげぇ楽しいのかもしれないな。

 荻野といると、そう思う。


 チョコ味のチュロスを頬張りながら、そんなことを考えていると、チープなベンチで「次なにしよー?」と伸びをしていた荻野と目があった。


 荻野は、おもむろに口を大きくあける。


「あ〜」


 物欲しそうな上目遣いが、俺の手元と瞳の間を行き来していた。


(ああ、チュロスくれってことね)


 どうやら、「あ〜ん」して欲しいらしい。

 付き合い始めてから、甘えん坊度と糖度がすこしあがった荻野が、クソ可愛い。


「はい。あーん」


 お望みどおり、小さな口にチュロスを突っ込むと、荻野はほんのり頬を染めて、もぐもぐと咀嚼する。

 照れたように視線をそらして、口の端についた砂糖をぺろりと舐めて、呟く。


「真壁……『あーん』の言い方が、やらしい……」


「えっ、うそ。どの辺が?」


「全体的に? 声のトーンが甘い。六美さん仕込み?」


「わけわからん」


 「「はは!」」とふたりで笑って、俺たちは家に帰ることにした。

 せっかく遊園地に来たんだ、このまま閉園まで遊び倒したっていいのだけれど。なんとなく飽きたから帰る。そんなのもアリ寄りのアリな俺たちだから。


  ◇


 「もう少し、真壁といたい」と荻野が可愛いことを言うので、俺たちはコンビニで適当な飲み物とお菓子、夜食を買って帰宅した。


 荻野はすでに、俺の家には何度か来たことがある。付き合い始めて早々に、「真壁の家行きたい!」とか言って、当たり前のように遊びにきたりして。今日もそんな感じ。


 俺がリビングで、冷蔵庫に買ってきたものをしまっていると、「お邪魔しまぁす♪」と鼻歌まじりの荻野が、廊下からひょこりと顔を出した。


「ね。シャワー借りていい?」


「いいけど」


「さんきゅ!」


 るんるん♪ と銀髪を揺らして浴室に向かう背中に、思う。


(荻野……今日もヤる気で来たな?)


 まぁいいけど。

 俺もそのつもりだし。


 そんなこんなで、各々シャワーを浴びた俺たちは、当たり前のように自室のベッドでイチャついた。


 背後から胸を揉まれながら、荻野がチラッとこちらを見やる。


「……今、『物足りねぇな』って思ったでしょ」


「思ってな……」


(いや。今更荻野に嘘ついてどーすんだ?)


 俺は、正直に白状した。


「ちょっとね」


 すると荻野は、「やっぱなぁ」と諦めたように言いつつ、頬を膨らませる。

 俺はフォローするように、胸を揉み揉みして、


「大きさとかもう気にしないよ。荻野の胸、俺は好きだよ」


「んッ。別に、お世辞なんていらないし……」


「世辞じゃないってば。本心だって。荻野の胸は柔らかいし、カタチもきれいだし、感度もいいし……」


 あと、胸とは関係ないけど舌テクがヤバい。


「そ、そんなこと……!」


 とか言ってるそばから、「ふぁッ♡」とかいう甘い声をだす。あ〜、クソかわ。


「荻野、可愛い」


「〜〜っ!? い、いいから、いっぱい揉んで大きくしてよぉっ!?」


 耳たぶを齧られた荻野は、精一杯な声をだして身を捩る。それがまた可愛くて。

 でも、ふとした瞬間。荻野が呟く。


「あたしも、六美さんみたいなおっきいおっぱいになりたいなぁ……」


「むつ姉みたいな……? それはちょっと、無理があるんじゃ?」


 冷静にそう返しながら、俺はあることに気づいた。


「あれっ? そういえば荻野、むつ姉のこと好きなんじゃなかったっけ?」


「そうだけど」


「え? 俺と付き合ってていいの?」


 大事なことを、今のいままで忘れていたが。

 荻野はにやりと、イタズラな笑みをもらす。


「真壁もさぁ、六美さんのこと、好きでしょ?」


「え? あ。うん。好きだけど」


 ほぼ反射的にそう返した俺に、荻野は渾身のドヤ顔を向けた。


「ふっふっふ♪ あたしにイイ作戦がある」


 ……多分、ヨクナイ作戦だ。

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