△△編④ END1 H・END


『ふっふっふ♪ あたしに作戦がある。とりあえず任せとけ』


 荻野がそう言ってからはじめて、俺と荻野、むつ姉のシフトが被る日がやってきた。


(荻野の作戦って、なんだろう……?)


 すごい。なんかわくわくする。


 荻野といると、いつもこういう、スリルとわくわくがない混ぜになるような。

 これがもはや心地よくて、すっかり俺は荻野に染まってしまったんだなぁと、改めて思う。


(まぁでも、恋人なんだから。染まって当たり前か……)


 いや、むしろ。

 染まったからこそ、付き合ってんだろうなぁ。


 思わず口元を綻ばせながら、いつもどおりバイト先でアイスのカップを補充していると、バックヤードの方からむつ姉の声が響いた。


「えええええっ!? ゆっきぃとりょーちゃん、付き合うことになったの!?」


(!?!?)


 えええええっ!? 荻野、言っちゃったの!?


 てか、荻野はむつ姉のことも好きだったし、それなのに俺と付き合って、しかもそれをむつ姉に言っちゃうってどういうこと!?


 ぎょっとして背後を振り向くと、バックヤード手前で、驚きに口元をおさえるむつ姉と、その目の前でドヤりちらかす荻野が目に入った。


「ゆっきぃ、今の話ほんと!? りょーちゃんの勘違い――妄想じゃあないよねぇ!?」


 はわわ! と頬を染めながらこちらを伺うむつ姉が、今日もくそ可愛いが……


「……一応、ほんと……」


 ふい、と照れ隠しに視線をそらし、それだけ言うと、むつ姉は予想外に、しょんぼりと肩を落とした。


「うう、置いてけぼり感……さみしい……」


「「!!」」


「お店のいつメン(いつものメンバー)で、彼氏いないの私だけだぁ……」


 そりゃあ……むつ姉の中の『いつメン』って、俺たちだけだから……

 俺と荻野がくっついたら、そうなるよ……


「むつ姉、一応、美鈴さんも未婚だよ……」


「店長はもう、じゃぁん!?」


 あっ。店長は、俺たちとは別のくくりなのね?


「ふぇぇ……ゆっきぃとりょーちゃんが幸せなのは嬉しいんだけどぉ。私、今日みたいに三人のシフトだと、ひょっとしてお邪魔虫ぃ……?」


 ちら、と涙目で伺うむつ姉が、珍しく面倒くさい絡みかたしてきて、それはそれで可愛い。

 むつ姉のことを心のどこかで好きな俺は、むつ姉がそうやって、『俺が誰かと付き合うこと』で拗ねてくれるのが、なんとなく嬉しかったり……


 マスクの下で思わずにまにましていると、同じようににまにましている荻野と目が合った。


(あっ。そうだ。荻野こいつもむつ姉のこと好きなんだった……)


「ああん……! もういっそ、ふたりとも私の弟と妹になってよぉ! どこにも行かないでぇ!」


 そんな、子どもみたいなダダをこねて、むつ姉は俺たちを両腕にぎゅーっと抱き締めた。

 荻野が思わず「ふわっ。おっぱい……!」なんて感想を漏らし、俺は顔のデレデレをおさえるのに全力を費やす。


 すると、荻野ががばっ! とむつ姉を抱き返し、


「六美さんっ! あたしは真壁と恋人同士になっても、六美さんをひとりにはしませんよっ……!!」


 そうして、むにゅん、とこっそりパイ揉みをしながら、囁いた。


「……今日、バイト終わったら真壁の家に行くんです。六美さんも、来ませんか?」


(……えっ?)


 俺、聞いてないけど?


  ◇


(……で。どうしてこうなった?)


 気がつくと、俺は自室のベッドで天井を仰ぎ、全裸で寝ていた。


 両隣には、同じく全裸のJKとJD。

 荻野とむつ姉は、俺の両腕を抱き枕のようにして、すぅすぅと愛らしい寝息を立てている。


 荻野とは別に今回が初めてじゃないから、驚かなくてもいいとして……

 むつ姉……? なんで?


(え? ……あれ? ここ、日本だよな……?)


 なんだか知らんが頭がいたい。ふらふらして、ぼーっとして、身体もまだなんかちょっと熱い気がするし……


 ぼんやりとした頭に、むつ姉と荻野のあられもない姿と嬌声が次々とフラッシュバックして……


 『ふぁぁ……ゆっきぃぃ♡』

 『んッ。真壁……ヤバっ!』


(ひょっとして……やっちゃった?)


 枕元に散らばる0.01の残骸が、否応なく現実を突きつけてきて――


(これって……えっと、その……いわゆる、ハーレムってやつ?)


 くそっ。盛り上がりすぎて、昨夜の記憶がイマイチないのが口惜しい……


 だってしょうがないでしょお。

 「六美さんも……ね♡」って荻野の誘いに乗っちゃったむつ姉が、「うん、いくぅ……♡ ゆっきぃ、いいよね?」なんてドエロい顔でウチ来るもんだから、つい……


「うっそでしょぉ……」


 ぼそっと呟くと、隣で寝ていた荻野が目を覚ました。

 「んん……」と目をこすり、まだ眠そうに、薄っすらと陽光のさすベッド上で伸びをする。


「ふぁ……おはよ、真壁。いや、今は幸村か?」


「別に、無理して呼び方変えなくてもいいよ……」


「じゃあ、ゆっきぃ♡」


「それはなんか違うから、別のやつにして」


「ははっ! 冗談だよ!」


 と。爽やかに銀髪を揺らす、朝の荻野だが。

 朝日に染まる白い肌が、どこか色っぽい……


「……日本にハーレムはあったんか」


 思わず呟くと、荻野は「真壁と六美さんがいいなら、み~んなまとめて、あたしのものにしてやるぅ。真壁だって、そっちの方が楽しくない?」なんて。


「ほんっと……荻野は自由だなぁ」


 はは、と呆れたように笑みを向けると、荻野はおもむろに身体を寄せて、俺の心臓部分に人差し指を当てる。


「……でも。真壁のココは、ずーっと。あたしのものだ」


 ばぁん! と、心臓を撃ち抜く素振りをした荻野は、イタズラっぽく舌ピアスをのぞかせて。

 俺と一緒に、世にも楽しそうな笑みを浮かべた。



※荻野編、Hハーレム・END。

荻野はまた違うルート分岐があってもいいかな、と思ってますので、思いついたら、違ったエンディングも書くかもです。


 次回更新は日曜夜!

 気分転換に後日談の方を更新しようと思っています。坂巻編はもう少しだけお待ちください。よろしくおねがいします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る