△△編②


 結論からすれば、俺は荻野と付き合うことに決めた。


 フラれたばかりの当日に、なにやってんだ。手のひら返し過ぎだろ……なんて。

 数日経った今になって、冷静に自分にツッコんでみたり――


 でも、後悔はしていない。

 この数日、俺と晴れて恋人になった荻野は、


『友達以上、恋人未満からの脱却! なんつー解放感! 好きなだけ真壁にお触り、キスし放題! イイ。控えめにいってすごくイイ!』


 ――なぁんて。

 これみよがしにテンションアゲアゲで喜んでくれるから。


 テストも終わり、もうすぐ夏休みムードな学校で。放課後ぼんやりと、帰りの支度をする生徒たちに混じって、マスクの下で頬を緩ませる。

 すると、ある男子生徒が窓の外を見て、声をあげた。


「なぁ、あれ。他校の制服じゃね?」


「うわっ。かわいー。つか美人。細っ。顔ちっさ! モデルか何か?」


「え〜なに? わっ、銀髪! 近くに撮影でも来てんのぉ?」


 ざわり、と教室がどよめく中、ある女子生徒がひそひそと、でも確実に、聞こえるように囁いた。


「あ。あの子……こないだ駅で、真壁と手ェ繋いで歩いてた子じゃん」


「「!?!?」」


 ぎょっとし、驚きと羨望に満ちた生徒たちの視線が、一斉に俺に向けられた。内心で、俺は思う。


(坂巻が、もう帰ってて助かった……)


 つか、なんで荻野がウチの学校来てんの?


 好きだと告白してくれた坂巻や白咲さんには、一応と思って、恋人ができたと報告は済ませていたけれど。でもってふたりとも、「好きでいさせてくれてありがとう」とも言われていたけれど。やっぱりまだ気まずいし。


 クラスメイトたちの目から逃れるように、鞄を手にして、俺はそそくさと校門へ向かった。


「駅で待っててって言ったじゃん。なんで学校まで来んの。つか、道よく知ってたな」


 ざわざわとした視線の中、問いかけると、荻野はグーグリュマップを示しながら、「コレで来た」と、したり顔で笑う。


「で。なんでわざわざ迎えに来たの?」


 放課後遊ぼうとは約束していたけれど、待ち合わせは駅のはず。


「てゆーか、荻野はもうちょっと、自分が(髪色だけでなく、良い意味で色々と)目立つ容姿なことを自覚して欲しいんだけど……」


「は? なんで?」


「いや、そりゃあお前……」


 さっきから、周囲の視線が刺さりすぎる。

 そもそも他校の女子が校門で出待ちだなんて、滅多にないことだし。それに……


「荻野は、ほら……可愛いし」


 照れ臭くって、困ったように頭を掻いていると、荻野は一瞬、ぶわわ! と赤くなって、「やっぱ来てよかったわ」と呟いた。

 そうして、周囲に見せつけるようにして、恋人繋ぎをした。


「『なんで来たの?』って。こうするためだよ」


「は?」


「マウント取ってんの。真壁の学校の子に、『真壁はあたしのもんです』って、わからせておかないとだからね〜!」


(ああ、そういうこと……)


 それだけ、俺のことを望んでくれているんだなぁと思うと、嬉しくて照れ臭くって、フラれた悲しみなんてどこかに吹き飛んでしまった。


 ……いや、違う。

 荻野が、吹き飛ばしてくれたんだ。

 この、無邪気な笑顔と、爽やかさで。


(ありがとう、荻野……)


「別に、そんなことしなくても、俺は誰にも取られたりしないよ」


「そう思ってんのは、真壁だけだよ」


「そういう意味じゃなくて。俺が好きなのは、荻野だから」


「……ッ!? ばっ……! はぁあ!?」


 そうやって、まっすぐに「好き」と伝えると、赤くなって照れ散らかすところも好き。


「もぉ〜……真壁の不意打ちは威力高すぎなんだよぉ……てかさぁ、今日ふたりともバイトないし、これから遊園地いこーよ!」


「え、これから? 急じゃね?」


「いーじゃん、いーじゃん!」


 そう言って、荻野は手を握って駅へと走り出す。


 ――ああ。やっぱり好きだなぁ。




※荻野編、あと2話だけ続きます!

次回は水曜更新です、しばしお待ちください。

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