ヒロインルート分岐・if

ルート分岐if 〇〇編①

(※【前置き】

 タイトルを伏字にしてるのは、消去法で誰とくっつくのかネタバレするのを防ぐため。本編未読の方への配慮です。本編を読んでいない方は、激しくネタバレるなので、本編を読んでからどうぞ!

 ルート分岐のため、本編と同じ描写や感情表現があったりしますが、必要だと思ったところは、敢えて変えていません。ご了承ください)



~ルート分岐 12話あたりから~


 ◇


 バイト先にて、「ゆっきぃ、顔が赤いよ。風邪かなぁ?」とむつ姉の自宅に連れて来られた俺は、むつ姉お手製のおかゆを目の前に、固まっていた。


「ゆっきぃ、あーん」


 ほかでもないむつ姉が、息を吹きかけてふーふーしたおかゆが、れんげの上に乗っている。


 まさかこの歳になって、あーんされるとは思ってなかった……


「あれ? 食欲ない? まだあっちぃかな?」


 むつ姉は、ふーっともう一度と息を吹きかけ、自分の口に運ぶ。


「うん! 大丈夫、美味しいよ」


 美味しくできたことをどこか自慢げにする、満面の笑み。


(ああ。やっぱ、むつ姉は可愛いなぁ……)


 ――ダメだ。

 さっきからむつ姉の笑みと仕草ばかりが気になって、正直おかゆどころじゃない。


 むつ姉は、追撃とばかりにふーっと念入りに息を吹きかけてから、れんげの端にわずかに口紅の残ったそれを差し出した。


「はい、あーん」


(――あ。間接キス……)


 そんなことを意識するのは、きっとお子ちゃまな俺だけなのだろう。


 むつ姉にとって、俺は年下の従弟で。

 こんなの、幼い頃から、お菓子や飲み物を仲良く分け合っていた延長線――


 俺はそれをどこか寂しく思いながら、間接キスのおかゆを食べた。

 むつ姉はそれをにこにこと、昔と変わらない笑顔で眺める。


 お腹もいっぱいになって、ふたりして他愛ないことを話しながら一息ついていると、ふと、むつ姉のベッド下に一冊の本が見えた。


(なんだろう? エロ本かな? ハッ、まさか。むつ姉に限って、そんなこと……)


「…………」


 そもそもエロ本だったら、剥き身でベッド下に置いてあるわけないだろ。


 俺はほぼ反射的に、それを手に取る。


「『麻酔探偵コニャン』……?」


 知る人ぞ知る、ヒット作。メガネっ子の少年探偵が麻酔を駆使して難事件を解決する、ミステリーマンガだ。

 今いったい何冊でているのかわからないくらいのベストセラーで、装丁の新しさ的に、多分最新刊っぽい。


「わっ、懐かしい……」


 昔はよく、むつ姉とアニメや映画を観に行ったっけ。

 うっかりページを捲りだすと、おかゆの器を下げに行ったむつ姉が、部屋に戻ってきた。


「むつ姉。懐かしいねぇ、これ!」


 などと呑気に笑みを向けると、むつ姉は顔を真っ赤にして、わなわなと震え出してしまった。


「ゆ、ゆっきぃ……ソレ、見ちゃったの……!?」


(えっ? な、何? その、隠してたエロ本を見られちゃったときみたいな反応……?)


 いつからコニャンは、R18になったの………?


「えっ。コレ、全然エロくないでしょ。俺が見てもいいやつだよね?」


 きょとんと問いかける俺に、むつ姉は、どこか恥ずかしそうに頬を染める。


「う……うん。いいよ。私、昔から好きなんだ。その漫画……」


「そうなんだ! 今、誰が何してるんだろう……俺、中学くらいから追えてなくて全然わからないや。むつ姉は、コニャンのどこが好きなの? やっぱ、幼馴染とのラブコメ要素?」


 尋ねると、むつ姉は「それもそうだけどぉ……」とか言いながら、何故か四つん這いで迫り、息のかかりそうな至近距離まで来ると、俺の眼鏡に手を添えた。


 たぷん、と。ブラウスの胸元から覗く谷間が、ドチャくそエロい……


 おかゆを食べたせいか、心なしか息も熱いし……


「むっ、むつ姉……!?」


 思わず「はわわ!」と視線を逸らすと、むつ姉はその目を合わさせるようにして、くい、と俺の顎を持ち上げた。


「一番好きなのは……主人公が、メガネっ子なところ。昔からね、好きなの……」


 むつ姉の艶っぽい唇が、そう囁く。


「私……眼鏡フェチなの……」


(えっ? そ、それ……今、言う?)


 わざわざ。


 俺は急に心臓がバクバクと鳴りだして、止まらなくなった。


 むつ姉の、どこか潤んだ瞳も、紅潮した頬も、唇も。

 何もかもがエロい。


(こ、こんなドエロい顔のむつ姉、見たことない……!)


 ダメだ、ダメだ。

 いくらエロくて可愛くても、むつ姉をそんな目で見ちゃあ――


 俺は、真っ赤になった顔を隠すようにしてそっぽを向き、世にも不自然な、精一杯の笑みを浮かべた。


「はは、だからか。俺に『眼鏡似合うね』って言ってくれるのは。それに、むつ姉、顔赤いよ。熱あるの? ひょっとして、俺のうつっちゃた――」


 ――その瞬間。

 俺の全身をあったかいが包んだ。


(――え?)


「む、むつね――」


「……そう。好きなの。昔から」


 『――ゆっきぃの、ことが』


 ぎゅうう……と。黙らせるように俺を抱き締めたむつ姉は――


「私が眼鏡フェチなのは、ゆっきぃのせいだよ……」


(!!)


「……ねぇ。ゆっきぃ。……大好き」


 ぎゅ……と。今度は優しく抱き着かれて、言葉を失ってしまう。

 むつ姉は、俺の首筋に顔を埋めて、すりすりと甘えるように、それでいて可愛がるように、俺のことを抱き締めていた。


 あったかい。柔らかい。包まれていると、だんだん幸せな心地になって……


(ああ……この感触。やっぱり、むつ姉だ……)


 幼い頃から、その幸せは変わらない。


 ――でも。この『好き』は、本当にと変わらないものなのだろうか。


「むつ姉……その、好きって……どういう好き?」


 問いかけると、むつ姉は俺の顎に手を添えて、唇にそっとキスをした。


「こういう、だよ」


(!!)



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