最終話 アイス屋でバイトはじめたら何故か幸せになりました(最後に後日談のお知らせありです)
もうすぐ、夏が終わる。
このままいけば、数年後には俺と荻野は遠い親戚同士になっているだろう。
俺と……その……坂巻も。
灯花との仲も変わらず良好で、懐が天使のように――それはもう星の大海よりも広い灯花は、俺と荻野の仲の良さについても、ちょっと頬を膨らませるレベルで済ませてくれている。
『女友達と花火大会に行きたい? ん~これって何かの試練です? んんんッ。なんでもありません。
私としては……一線を越えないなら、別にいいです。ゆきくんの大事なお友達……私個人の醜い感情でそれを奪ってしまうような、カッコ悪い女にはなりたくないですから。その代わり、後日、私とも花火大会に行ってくださいね! 約束!』
そう言って、白魚のような小指で指きりを迫る灯花ちゃん。
か~……! いつ思い出してもイケメンすぎる! 天使すぎる! 愛してる!
ちなみに、その友達が荻野だと言ったら、店で何度も荻野に会っている灯花は、「あ。涼子ちゃん? ならいいです」なんて、あっさりOKしてくれた。
灯花の中では、荻野は俺のズッ友扱いらしい(事実そうだ)し、灯花個人としても、荻野のことを面白くていい人だと思っているらしいのだ。
そんなこんなで、俺は今、幸せリア充生活のど真ん中にいた。
しかし、ふとした瞬間。思うことがある。
俺は、コットンキャンデーの補充を終えて、アイスクリームのディッシャーを慣れた手つきで整理する荻野に話しかける。
「なぁ荻野……」
「ん?」
「もし。俺が失恋した……あの日、あのとき、あの場所で。俺を見つけたのが灯花でなく、荻野だったら。俺たち……どうなってたと思う?」
その問いに、荻野はわざとらしく首を傾げ、銀髪を揺らす。
「さぁ~? 付き合ってたかもしれないし、そうでないかもしれないね」
「そっか……」
「でもさぁ。あたしは、これでよかったとも思ってるよ」
「!」
「白咲さんは、真壁にはもったいないくらいのいい子だし、あたしは今、真壁と一緒にいられて幸せだしね」
そう言って、荻野がふわりと耳に髪をかけると、やや小ぶりで、精緻な細工のピアスが覗いた。
今は、俺の左耳にも、揃いのデザインのものが付いている。
永遠の――友情の証として。
その揃いのピアスを見るたびに、俺の左耳には、荻野に穴を開けてもらったときの痛みが、じんわりと熱を持って広がる。
「もしあたし達が付き合って、恋人同士になってたら。そこから始まる感情もあったかもしれないし、そこで終わる感情もあったかもしれない。
そう思うと、今のあたしたちの関係は、永遠に不滅――ある種の、幸福のカタチなのかもしれないね」
「荻野……」
「ねー、真壁。あたし、二十歳過ぎたら、男装して兄貴の店で働こうかな、とか考えてるんだ」
「へ? そ、そうなんだ……?」
急になんだろう、とは思いつつも耳を傾ける。
荻野は、俺とお揃いのピアスをいじいじとしながら。
「ピアスお揃いで買ったとき、白咲さん、フツーに許してくれたじゃん? 『じゃあ私はペアリングが欲しいなぁ〜』なんて、要求それだけ。お咎めなし。白咲さんはあたしとも仲良くしてくれるし、真壁との仲も公認してくれるけど、女のカッコのままだと、やっぱりどっか不安にせちゃうかなぁって……」
ああ、やっぱり気にしてたのか。
つか、今更?
俺はフッ、と不敵に笑ってみせる。
「ウチの天使様ナメるなよ」
「?」
「荻野の見た目が女か男かなんて、灯花には関係ない。灯花は、荻野が荻野だから、俺たちの仲を公認してくれるんだ。『涼子ちゃんは、セクハラはひどいけど、一線を越えるような子じゃありません』って。俺とお前のことを信頼してくれてるんだよ」
「え……なにそれ。惚れそう」
「ダメ。やめて。それこそ泥沼だから」
荻野なら、本当にやりかねないし。
内心で焦る俺をよそに、荻野は「敵わねぇ〜!」と笑った。
「え。じゃあさ、あたしもたまには真壁とチューしちゃダメ?」
「は?」
せっかく人が、いい感じに終わり――感慨に浸ってたっていうのに、こいつは……!
サラっと、なんでもない風に! そういうことを言いやがる!
「ねぇ、白咲さんから許可は出ないの? キスまでならOKとか」
「それはさすがに聞けるわけないだろ!?」
「え~。ケチ~。白咲さんは天使だし、こうなったら、友情の名のもとに、どこまでヤレるか試してみようよ」
「灯花が本気で悲しむことは、俺にはできないから!」
「だから、悲しませないギリギリの線を狙うんだってば。例えば……王様ゲームで仕方なくキスならセーフとか。あたしが白咲さんにキスして、そのあと真壁にキスするとか!」
……意味わかんない。それのどこがセーフなの?
てか、荻野が灯花にキスする意味なくね?
え。やだ。NTRじゃん。逆に俺が妬いちゃうよ。
「あ~、なんなら。大学生になったら、あたしも坂巻さんと一緒に真壁の家で暮らそうかなぁ~。白咲さんも誘ってさぁ」
「は!?」
「いいじゃん、部屋余ってんでしょ? 女三人、プラス真壁。あたしは可愛い子大好きだし、酒に酔った勢いで白咲さんとか坂巻さんを、たま~につまみ食いとかしてさぁ。ついでに真壁も一緒になって、くんずほぐれつ……楽しそうじゃない?」
「なんでそうなんの!?」
「あたし、真壁なら、全員幸せにできると思うんだけどなぁ〜?」
「なわけないだろ……ここ日本だよ……」
相変わらずの荻野理論に、呆れたようにため息を吐く。
でも、そうだなぁ。大学かぁ……
「じゃあ例えば、最近料理に凝ってる俺が、アイスを作る方に目覚めて、男女比1対100のパティシエ学校に入学するとか?」
「うわ、ラノベっぽい! そしたら真壁はハーレムだぁ!」
「なりません〜。俺は、こう見えて結構一途ですから」
「うげぇ、好きっ!」
「は!?」
「あははっ! 照れた照れた、真壁が照れた!」
そんな荻野は爽やかに笑って、それから、誰にも見えない角度で耳打ちをする。
「でも……その気になったら、あたしはいつでもOKだよ?」
「……ッ!?」
ふわっ、と。耳の中にアイスみたいな冷たい息を吹きかけられて、俺は硬直した。
(もう、荻野はこれだから……ッ)
……今更か。
俺はふぅ、と明るいため息をひとつ吐く。
アイス屋でバイトを始めてからというもの、なぜかモテにモテまくった俺の人生は――
怖いと思っていたギャルと仲良くなれて、
いつも応援してくれる友達ができて。
好きだった人に告白する勇気が持てて、
念願の彼女ができた。
むつ姉とも、腹を割って話せて、ずーっと仲良しでいられるようになって……
思い返せば、全部が全部。甘く、楽しく、一瞬でとけてなくなってしまうような、あっという間の毎日だった気がするな……
まるで、アイスクリームみたいな。
「真壁? どした?」
「なんでもないよ」
同じように、アイス屋でバイトを始めたことでできた、この唯一無二の親友の手によって、俺の人生は今後もぱちぱちと、楽しく忙しいものになりそうだ。
もうすぐ閉店になる時刻。ふと時計をみると、フロアの向こうで、最愛の彼女が手を振る。
「ゆきくん! 迎えに来ました。一緒に帰りましょう! あ。涼子ちゃんも、お疲れ様〜!」
「ありがとう、灯花。少しだけ待ってて!」
「はーい!」
その天使の笑みに、ふふっと口元を綻ばせる荻野。
(俺は、この繋がりを、ずっと大切にしたいな……)
補充しようと手にしていた、ぱちぱち弾ける大好きなホッピングシャワァのアイスクリームを手に。俺はそう思った。
(完)
【あとがき】
物語はこれにて完結です。
ここまで読んでくださった方、応援してくださった方々、最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。皆様のコメントにはいつも励まされました。
毎日更新で走り続けた今作、今後は、少しお休みをいただいた後、ルート分岐if(荻野ルートや、むつ姉相思相愛ルートなど)を、要望や必要に応じてぼちぼち更新しようかと考えています。
できれば週1以上(多分、日曜夜に)更新したい……
なので、引き続きフォローしていてくださると嬉しいです! 次回作、大学生シェアハウス編は未定です。
(ぶっちゃけifなんで、ハーレムエンドでもハッピー、バッド逃避行、真壁→兄貴エンドでも、なんだってできちゃうなぁ。なんて思ったり)
やるときは、「本編よりifのが面白い」なんて言ってもらえるようがんばりつつも、はっちゃけようと思ってます。
最後に。もしよろしければ、今作に対する感想、★、レビューなどいただけるととても嬉しいです!(特にレビュー! ★が一個なのか三個なのかって、結構重要な、読者様の反応の指標になってて汗)
今後の作品作りの参考にさせていただきたいです。
作品ページのレビュー、+ボタンの★でよろしくお願いします!
(PC閲覧だと、最新話本分から下スクロールでいけるっぽい?)
★ ふつー、イマイチ
★★ まぁまぁ
★★★ おもしろかった、続きが気になる など。
何卒、よろしくお願いいたします。
以上! 夏とアイスがテーマのラブコメでした!
長くなりましたが、最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
まだ全然未定なのですが、if更新を、お待ちいただけると嬉しいです!
どのシーンから分岐するか、お楽しみに。
(追加で宣伝)
最近は、ラブコメ要素強めの異世界ファンタジーもやってます。
『ヤンデレ侍、好きにて候』
https://kakuyomu.jp/works/16817139557458791437
テーマはヤンデレと、少年の成り上がり。
起承転結の起にあたる、7話までをひとまず読んでいただけると嬉しいです。
よければこちらもよろしくです!
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