第75話※ 続・一緒に寝ちゃ、ダメ?
「ねぇ……一緒に寝ちゃ、ダメ?」
(ド直球かよ……!)
寝間着姿の坂巻が、正面きって懇願してきやがった。あああ、これもう完全に修羅場〜♪コースじゃん!
でも。これで修羅場になるかどうかは、他でもない俺にかかってるんだ。そう、胸の内で己の頬を叩く。
「真壁……?」
長いまつ毛をしばたたかせて、大きな瞳が見上げてきた。
ぐらぐらと、理性が揺れる。耐えろ俺。
俺は、頭の中で「ヤっちまえ。他でもない坂巻が、それを望んでいるんだぞ」と囁く悪魔に抗うように、声を絞り出した。
「だ……め……!」
「ねぇ、一晩だけでいいの。どうしてもダメ?」
「……ッ!」
……一晩だけ。その意味を、理解できない俺じゃない。
全てを諦める前に、一度でいいから、抱けっていうんだろ?
坂巻は処女だっていうし、「初めては、好きな人がいいの」なんて通説が世にあることも知っている。
かくいう俺だってずっと、「初めては好きな人と〜」を夢見て、それがこないだようやく叶ったっていうのに。
俺は、今一度坂巻の潤む瞳を見下ろして、拳を握りしめた。
……できるわけないだろうが。
俺の為にも、坂巻の為にも。
俺は、以前の俺と違って、坂巻のことが嫌いじゃない。むしろ今は、その……色々とあったし……好きなくらいだ。
だが。
俺の心には、あの日、あのとき。悲しみの淵から救い出されて、その強さと優しさに触れたときから、白咲さんというとても大きな存在が星のように瞬いている。
それが嘘偽りのない事実である以上、俺は坂巻のことを、一番に大切にすることはできない。
そうなると、一夫多妻の許されていないこの国では、坂巻はどう足掻いたって幸せになんてなれないわけで……
だから……ダメなんだ。
「ねぇ……ダメ?」
(……ッ。くそっ……!)
追撃すんな! 笑えない!
ついでにシャツの裾を掴むな! 甘えるみたいに! こっちだってぐらんぐらんで、もういっぱいいっぱいなんだよ!
そんな可愛い仕草すんな!!!!
「ダメだ! だめだめ! ダメなものはダメ! それくらいわかれ! 俺にも矜持ってもんがあるんだよ! 坂巻も、自分をもっと大切にしろ!」
言い切って、部屋の扉をばたんと閉めた。
ため息を吐きながらベッドに倒れ込むと、布団から、かすかに甘い白咲さんの匂いが漂ってくる。
その匂いを嗅ぐと、俺の頭にはいつも、あの言葉と、白咲さんの、あの笑顔が浮かぶんだ。
『ゆきさんが元気になって、よかったぁ……』
ああ、俺は。
やっぱり、どうしようもなく……
(こんな……彼女の匂いが残ったままのベッドに、寝かせられるわけないだろ……)
それこそ、どんな冷血漢だよ。
自分に言い聞かせるように、俺は固く目を閉じた。
※次回、イチャラブ回!
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