第63話 家族の行方
「俺、ひとりがいい」
宣言すると、母さんがきょとんと首を傾げる。
「幸村……それ、どういうこと?」
そういう「なんでぇ?」みたいな顔しないで。
親戚だからか、若干母さんはむつ姉に似てるんだよ。そういうぽかん顔されると余計にさ。判断鈍るじゃん、やめてよ。
俺は、今一度背筋を伸ばした。
「最後になるかもしれないから、はっきり言わせてもらうけど。あれだけ俺のことほったらかしにして、今更『家族』もないんじゃないの?」
「「!」」
「父さんと母さんにそれぞれの生活があって、そっちを優先した結果がこの六年近くのほったらかし。金だけ渡して、『はい、どーぞ』でしょ? それでもって、今度は『新しい家族』? だったら、この六年で築いてきた俺の生活はどうなるの? 父さんと母さんに事情があるように、俺にだって事情があるんだよ。
結局、俺は、『家族』じゃなくて、被扶養者だったんだ。
だったら……
「養ってくれるのは本当にありがたいと思ってる。でも、あと少しだけ。俺が成人して、独り立ちするまで。あの家を好きに使わせてください。自分で稼げるようになったら、荷物をまとめてちゃんと出て行くよ。ただ、それまでは。学費とか、生活にかかるお金とか。諸々工面してくれても……いいんじゃないの? 『親』なんだから……」
「幸村……」
「ゆきちゃん……」
「母さん……頼むからその呼び方、外ではやめて」
いつのだよ。
正面で笑いをこらえる坂巻が、「ゆきちゃんて、呼び方可愛すぎか!?」って、百面相して大変そうだよ。
「お願いします」
立ち上がって他人行儀に頭を下げると、父さんと母さんは二の句が継げなくなった。
――無責任。そのしっぺ返しと、知らなかった息子の成長に、ただ呆然と俺を見つめている。
「何も、『俺が一生働かなくてもいいように、置き土産にめちゃくちゃ不動産価値の高い不労所得うはうはな都内のタワマンを買ってくれ』なんて言うつもりはないんだ。(本当はそれくらい言いたいけど)。俺は、今の生活と大学進学――俺の将来と夢を、壊さないで欲しいだけなんだ」
「……ッ」
その言葉に、父は、己の不甲斐なさに渋面を作った。一方で母は、「ごめんねぇ、ママがもっと売れっ子作家だったら、タワマンくらいキャッシュ一括で……」なんて。やっぱちょっとどっかズレてるんだよなぁ、母さん。
だが、説得が功を奏したのか、それとも、俺の言葉がようやくふたりに響いたのか。離婚の話は一旦保留に、書類上は、俺が成人するまで『家族』を続けるカタチとなった。そうじゃないと、手続きとか色々面倒だからな。
俺は晴れてあの家で一人暮らし。進学への金銭的援助も惜しまないとのことだ。
両親は、いままでどおり各々パートナーとの生活を送ってもらって構わない。(そもそも職場以外の家らしい家に寝泊まりしているのかすら不明だが)
そうして、俺が独り立ちしたその日には、正式にふたりは離婚し、お互いのパートナーとの婚姻届を提出する――俺も、それまでにどちらの家に入るかを決める。そういう運びとなったのだった。
父さんと母さんが最後に口にした「幸村がそう望むなら」という言葉。思えばあれは、彼らに残された最後の親心だったのかもしれない。
なんとも気まずい両家の顔合わせはこれにて終了。
帰り際になって、ようやく俺たちは子ども同士で会話する機会を得た。
正式な場ではない。あくまで、東京駅に向かう帰りの道すがら、隣を歩くことになっただけだ。
坂巻が、ようやく息ができるとばかりに問いかける。
「真壁、知ってた?」
「いや、全然」
「だよねぇ」
「だよなぁ」
どうしよう。いざとなると、聞きたいことが浮かばない。だって、全部が現状維持ってことで決まってしまったわけだから。俺と坂巻が義兄妹になる頃は、俺たちはもうクラスメイトじゃないもんな。
だが。話さねばならないことが山ほどあるはずなのはなんとなくわかる。ただ、今話すべきことが見つからない。そんな感じだ。
「つかさぁ、坂巻は母さんに何度か会ってたんだって? 苗字で気づけよ」
「いや、いくら真壁がそこそこ珍しい苗字だからって、まさかクラスメイトの真壁だとは思わなくね?」
「まぁ、それもそっか。そーだよな」
「だよだよ」
「あのぅ……真壁さん?」
初対面のはずなのに何故か当たり前のように会話できている俺たちに不審の目を向けながら、金髪碧眼の美少女が俺を呼び止めた。
「なに? えーと……」
「ソフィアです」
「はい。ソフィアちゃん」
思わぬ圧と、予想外に流暢な日本語(見た目はまんま外人さんなので)に戸惑いながら返事すると、ソフィアちゃんはおずおずと尋ねる。
「真壁さん……あの、お父さんの方の。は、どんな方なんですか? 母の紹介で何度かお会いしたことはあるんですけど、これから一緒に暮らすにあたって、その、色々と聞いておきたくて……」
「!」
そっか。俺にとっては現状維持でも、ソフィアちゃんや坂巻にとっては、違うんだもんな。そりゃ不安にもなるよ。
俺は、できるだけ穏やかな口調で告げる。
「大丈夫。親父は本来、クソがつくほど真面目な人間で、面倒見もいいんだ。なにせ、生活力皆無の母さんと結婚して、家事に育児に仕事にって、頑張っていた人だから。仕事のこととなると周りが見えなくなっちゃうこともあるかもしれないけど、今度はきっと大丈夫。俺からも、がつんと一言言っておくよ。『今度はしっかりやれよ』ってね。父さんのことで困ったことがあれば、いつでも連絡してくれていいから」
それを聞いて、ソフィアちゃんはどこかホッとした顔をした。
「あ、ありがとうございます。真壁さ……お兄ちゃん?」
(お、お兄ちゃん呼び……!? ぐう可愛い!)
小首を傾げて照れる様子に、一瞬、「あっ、やべ。こっちについてくべきだったかな?」なんて世迷言が頭に浮かぶ。
一方で、隣で坂巻が顔を青くした。
「幸音さん、生活力皆無なの……?」
「うん。見りゃわかるでしょ、漫画家なんて皆そんなもんだよ(偏見と親の刷り込み)」
「えっ。あんなに美人なのに?」
美人は関係なくね? でもまぁ、あえて言うなら……
「美人だから、自分で身の回りのことできなくても、自然と周りがやってくれたんだよ。母さんにはそういう、変な『放っておけないオーラ』がある」
若い頃はきっと、どっかのラノベに出てきそうな、天才肌のぽやんぽやんな世話焼かれ系美少女だったんじゃないかな。
俺の叔母さんもとい、むつ姉のお母さんも、
「うっそ、マジかぁ……」
途方に暮れる坂巻に、俺は後方息子面してエールを送る。
「うーん、まぁ。母さんはそういう、仕事が恋人みたいな人だから。その分、母さんの描く漫画は面白い。ああ見えて、小さい頃は俺のためだけに漫画を描いてくれたりもしたし。不思議と憎めない人だから、気が向いたら仲良くしてあげて。てことで、坂巻はがんばれ。いいか、まかり間違っても、俺の家に転がり込むんじゃねーぞ」
「そっか、その手が……」
「来るんじゃねぇ」
(宣伝)
お試しで新作始めたので、宣伝させてください。
そういえば、本作にヤンデレがいないなぁと思って始めました。
『ヤンデレ侍、好きにて候』
https://kakuyomu.jp/works/16817139557458791437
冬のカクヨムコンにて本格連載を考えている、ラブコメ要素強めの異世界ファンタジーです。主人公(ルデレ)は2話から出ます。テーマはヤンデレと、少年の成り上がり。
制作済みの部分(9話)までを今晩から9日連続更新、お試しで載せます。フォローしてくれると嬉しいです。
異世界ファンタジーを書くのが久しぶりすぎて感触がいまいちわからないので、感想を、作品ページのレビュー、+ボタン★で教えていただけると嬉しいです!
★ ふつー、イマイチ
★★ まぁまぁ
★★★ おもしろかった、続きが気になる など。
是非よろしくお願いします!
『ヤンデレ侍、好きにて候』
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