第51話 デートの誘い方
加賀美さんに告る前に、デートがしたい。
よく考えてみると、なんとも無謀な考えだ。
だって俺たちは、ただ友達で、クラスメイトで。
そもそもデートに誘えるなら、デートの最後に告白する選択肢だってあるはずだ。実際、白咲さんはそうやって、告白をしてくれた。
いや、そもそも。
俺は加賀美さんのLINEのアドレスすら知らないんだが?
告りたいほど好きな子の、連絡先のひとつも知らない。我が身の奥手さ、陰キャっぷりに、さすがの俺でも引いてしまう。
こうしてみると改めて、坂巻や白咲さんが、俺のためにどれだけ勇気を出してくれたのかがよくわかった。
「と、とにかく。明日、学校で会ったらLINEのアドレスを聞いて、もし会話が良さげだったら、そのまま流れでデートに誘おう……!」
デートに誘える流れって、どんな流れか知らないけどさ。
翌日。ドキドキと胸を高鳴らせ、緊張に震える思いで、俺は学校に向かった。
◇
「で? 一回も声かけられなかったってワケ? くそヘタレwwww」
「好きに笑ってくれよ。もう笑うしかねーよ……いくら教室移動とか、放課後は早々に部活に行っちゃったとか、悉くタイミングが悪かったとはいえさぁ、俺ってこんなにダメダメだったっけ? あ。もうダメ。なんかお腹痛くなってきた……」
青い顔をして腹をおさえる。今日も今日とてシフトの被っている荻野は、昨日の出来事がまるでなかったかのように、いつもどおりな反応だ。
「てか真壁、やっぱ告ることに決めたんだ? 偉いじゃん。あたしはできないから、素直に尊敬する」
はは、と軽やかに笑い飛ばしつつも、どこか浮かない表情。そんな荻野に問いかける。
「荻野は告らないの? その……むつ姉に」
「なぁに? 自称弟から、ついに許可がおりたってか?」
慎重に、しかし確実に首を縦にふると、荻野は驚いたように目を見張った。
「へぇ、一応認めてくれるんだ。嬉しいよ。けど、残念ながらあたしは六美さんに告れないんだ」
「どうして?」
俺の問いかけに、荻野はぽつりと語り出す。
「あたしはさ……この職場が好きなんだ」
「?」
「自分で言うのもくそムカつくけど、ほら、あたしの場合はイレギュラーっていうか、事情が事情(レズ)じゃん? もし告って、フラれるだけならまだマシだよ。でもさ、そのせいで六美さんがあたしを怖がって、バイト辞めちゃったりしたら、店長にも六美さんにも真壁にも迷惑をかけるし、この、『みんながいるアイス屋』っていうあたしのすっごく好きな居場所を失いたくないんだよ……要は、らしくもなくビビってるってこと。だから、告るって決めた真壁は偉い!」
「荻野……」
「もしあたしが六美さんに告るなら、六美さんが大学を卒業して、バイトを辞めるときかなぁ……ま、それまでに六美さんに彼氏ができちゃったら、それはそれで終わりなんだけどね! つらっ!」
そう言って爽やかに笑いとばす荻野。
その笑顔が「この話はもう終わり」って言ってるんだ、これ以上は深く聞かないことにしよう。
俺も荻野にならい、冗談めかしてさらりと流す。
「それは俺も終わるわ。むつ姉に彼氏できるとか、悪夢でしかない」
「だよねぇ〜ww てか大丈夫? 腹痛いなら別に早退してもいーよ。仕事も慣れたし、放課後のラッシュも過ぎたし、もうあたしひとりでも平気だし」
「マジ? でも、ワンチャン部活後の加賀美さんが店に来る可能性もあるかと思うと……」
「いや。どんだけ低い可能性に賭けてんの。坂巻さんや白咲さんみたいな常連でもあるまいし。そりゃ、学校と違って知り合いの人目も少ないし、店に来ればアドレス聞きやすいだろうけどさぁ。 ……なくね?」
「だよなぁ……やっぱ明日、学校で聞いた方が早いかぁ。うぐ、腹痛ぇ……」
「だよだよ。今日はもう帰りなって」
「でも、前にもむつ姉と早退したし、荻野にも店長にも申し訳な……」
「いいから帰れ。真壁は店長もお気にだから大丈夫だって。それに、病人庇いながら仕事する方がメンドい」
「じゃあ、お言葉に甘えて……」
早退しようとバックヤードに引っ込もうとする俺に、荻野はすれ違いざまに囁く。
「貸しひとつ、ね。今度チューさせてくれたら許す」
「!?」
ぎょっと固まるも、にやにやとした視線が返ってくるだけだ。
完全に遊ばれ……いや、狙われている。
俺は、顔が赤いのを隠すようにそっぽを向いた。
「肉まん一個で勘弁して……それか、せめて別のお願いで……」
「ツレなぁ〜い♪ ま、いいよ。別のお願い、考えとくね」
と、言う割には楽しそうな荻野に挨拶をして、俺は早退した。
◇
真壁が帰り、なんとも寂しくなった店内で、ひとり店番をする。
別にひとりはキライじゃないけど、ここのところずっと真壁と一緒だったから、いなくなるとコレじゃない感っていうか、なんていうか。やっぱ寂しいな、コレ。
でも、腹痛いんじゃしょうがないし……
(あ〜〜。真壁とまたキスしたいなぁ……)
ぶっちゃけ。超気持ちよかった。美味しかった。
真壁はウブだから貞操観念はちょい厳しめだけど、それ以上に優しいから、なんだかんだで受け入れてくれるし、女相手に力で抵抗したりもしない。しかも、「やめろ」と言いつつ、まんざらでもなさそうな反応が、また、ね……くすぐるんだよ。色々と。
などと考えていると、お客さんが来た。
瞬間。驚きに固まる。
(真壁、リアルラック低すぎか……?)
店番をしていたあたしの目の前に来たのは、艶やかな黒髪を揺らした、清楚な大和撫系JK……
加賀美さんだった。
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