第50話 そういう友情、告る勇気
「最近、けっこー多いよ? そういう友情」
いや、まぁ……世間も寛容になったのか、『元セフレな女友達と云々かんぬん』みたいなラノベなら、最近見かけることもあるけどさぁ。
リアルで言われるとは思わなかったわ。
まさか。まさかの提案だよね。
荻野の思考の柔らかさってゆーか、許容範囲の広さ、もとい貞操観念には脱帽するわ。
「いやいや。リアルはマズイでしょ……」
「いやいや、あたしと真壁の仲なんだから、案外身体の相性もバッチリかもしれないよ?」
「身体の……」
言われて、荻野の胸と、スカートの奥に隠された三角地帯につい視線がいく。
「えっち♡」
気づかれた。
「不可抗力だろ」
「今、乳少ないなぁって思ったでしょ?」
「ソンナコトナイヨ」
「むぅ。こう見えてCはあるんだけどなぁ。(いやちょっと盛った。本当はBがちょうどいい)真壁はくそ羨ましいことに、六美さんのを見慣れてるし、物足りなく感じるのもしゃあなしか。まぁ、足りない分は揉んで育てればいいからさ。……ね? 揉まない? 自分で揉むのじゃ意味がないんだよ」
そう言って、荻野はシャツの裾をぺろりとめくって、真っ白な腹を晒した。下乳が見えそうで見えない、ぎりぎりの線を攻めてくる。
まさかとは思うが、そこから、手を入れろってことか?
「……!」
もう見ただけでわかる。柔らかそうで、絶対すべすべなやつだ。
前から思ってたけど、荻野ってすげぇ肌綺麗だよなぁ。
……超触りたい。思わず喉が鳴る。
(揉めって? こんな、胸揉んだだけであとはお預けとか、一種の拷問だろ。いや、お預けを命じてんのは俺の理性なわけだけど)
「おい、帰ってこい真壁。目を背けるな、これは現実だ」
「鬼教官ボイスで言わないで……」
もはや冗談をかませるぐらい現実逃避に陥っていると、荻野は一変して、「あは!」と快活に笑う。
「じょ〜うだんだって! セフレは言い過ぎた! だからそんなに困った顔しないの! ふふっ、ふふふふ!」
「な、なんだ。冗談か……」
全然、そうは聞こえなかったけどな。
「おどかすなよ……」
ため息を吐きながら身体を起こすと、荻野もお行儀よく腹の上から退いてくれた。
停電もすっかり復旧し、明るくなったバックヤードで、ダイキュリーアイスの試食を片付けて、各々鞄を手にする。
「駅まで一緒に帰ろう」
「うん! 電気消すよ〜」
ふたりが退室し、再び暗闇になった部屋に向かって、荻野は囁く。
『別に、真壁となら冗談じゃなくてもよかったんだけどなぁ〜♪』
「どうした荻野? 置いてくぞ」
「待って、待って! あ。ねぇ、お腹空いた。帰りにコンビニ寄らない? 肉まん分けっこしようよ」
「いいけど、俺もお腹空いたから、肉まんは全部食べたい」
「あたしが一個だと多いの! じゃあ半分あげるから、食べて」
「ん。ならありがたく貰おうかな」
いつもどおりの関係、会話に、どこか胸を撫で下ろしつつ、俺は退勤したのだった。
◇
帰りがけに肉まんを一個半食べたせいで、帰ってから改めて夕飯を食べる気になれるわけもなく、俺はソファにどっかと腰をおろした。
「はぁ〜、つっかれた……」
色んな意味で。
午後十時過ぎ。真っ暗なリビングに、空虚なぼやきがこだまする。
親は今日も帰ってこない。前に帰ってきたのがいつだったか、もう忘れてしまったくらいだ。
目の前に広がるいつもどおりの光景に、先程の暗室が浮かんだ。
同じような暗闇で……俺は、荻野と……
こうしていると、ついさっきの出来事は、まるで夢だったのではないかという気さえしてくる。
唇に指で触れると思い出す、柔らかな感触だけが、俺にとっての現実だった。
この感触を忘れてしまえば、今日の出来事もなかったことになるのだろうか。
そう思い直し、俺はシャワーで諸々の感情を泡と一緒に洗い流して、部屋に戻った。
ベッドに仰向けになって、天井を見つめる。
「加賀美さん……」
近々、加賀美さんに告白しようと思っている。
でも、想いを告げて、それが加賀美さんの負担になったりしないだろうか。
最近の加賀美さんは、どこか様子がおかしい気がしていた。いくら中学の時分からの知り合いとはいえ、高校に入学してからは、学校で話す機会なんてほとんどない。先日の、加賀美さんの来店と、体育祭のことは、本当にイレギュラーだったんだ。
だが、そんな中でも、いつも加賀美さんをどこか目の端で追ってしまう自分だからこそ気づくような、些細な予感があった。
多分だけど。加賀美さんも、両親とうまくいっていないような気がする。
志望校を強引に変えさせたこともそうだし、加賀美さんがああまで学校で優等生に努めるのも、関係しているんじゃないだろうか。
鏡原学園高等学校……ウチの高校の理事長が加賀美さんの親っていう噂は、本当なのかな?
加賀美さん本人は、あまり話したがらないみたいだけど。
そんな中で俺が告白して、精神的な負担にはなってしまうようなことは避けたい。
俺は、加賀美さんと恋人同士になりたいけれど、一番には、彼女に笑って欲しいから。困らせたくはないんだ。
「告る前に、ちょっとでいいから、話……できないかな?」
こういうときって、どうすればいいんだ?
今までの出来事を、頭の中で思い返す。
浮かんでくるのは、坂巻や白咲さんの言葉と、誘い文句だった。
『もしよければ、週末、一緒に出かけませんか?』
「やっぱり、デートするしかない、か……?」
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