第35話 デズニーデート
来たる土曜日。
待ち合わせ場所の舞浜駅改札前で、白咲さんの到着を待つ。
今日の装備は、コンタクト。
その他、的場店長コーディネートのイケてるジャケット、それに合うパンツ、同じく合うシャツ、など。少なくとも、『木の棒 木の盾 ボロい靴』みたいな初期装備だった坂巻とのデートよりは、レベルが10はあがってると思う。
レベルがあがればテンションもあがる。こんなことなら、もっと早くにファッションにも興味を持っておくべきだったかも、なんてな。
服装はともかく、白咲さんは俺の眼鏡姿を知らないし、行き先は遊園地なので、多分アトラクションにも乗るのだろう。だとすれば、吹き飛ぶ可能性のある眼鏡よりは、コンタクトの方がいいと思った。
チケットは白咲さんが事前に購入してくれたらしいので、行ったら売り切れ、という心配もない。準備は万端だ。
どこに行きたいか、という話になったとき、デズニーランドが挙げられたことには驚いたが、白咲さんの通学鞄に愛らしいマスコットのぬいぐるみが付いていることを考えれば、「好きなんだろうなぁ」という結論に至った。
俺は、デズニーランドの存在については、キャラクターなら店でもコラボ商品の扱いがあるので、多少は知っている程度。
教室で「今期のパレードがぁ」「限定味のソーダがぁ!」などと盛り上がる女子を横目に、「ふぅん。そういうのがあるのか」と。ここ数日、聞き耳を立てて情報収集をした、そのレベルの知識しかない。
単純に、今まであまり興味がなかったんだ。
家族で行った思い出もないし。
でもこれからは、そういう不慣れなものにも、ちょっとは興味を持って関わっていこうかな、なんて。らしくもなく前向きな考えが芽生え始めている自分がいた。そんな変化が、嫌いじゃない。
改札を出るや、いや、舞浜のホームに降り立つや否や、軽快な音楽とファンシーな建物の並ぶ風景に圧倒された。
(なんだ、アレ? シンデレラ城って、マジで城じゃねぇか。城が建ってるぞ……)
Googleマップにある『シンデレラ城』の表記が、マジで城だと、今知ることになるとは。
てっきり、なんかもっと、オブジェクトっていうか園内装飾っていうか、そういう類のものかと思ってた。すげぇ。規模も造りもガチの城だ。
もう少し、勉強してから来ればよかったかも。デズニーランドに関する予備知識が、圧倒的に不足している。
でも。そんなファンシーな世界観の街を見て、同時に思った。
(白咲さん、めちゃくちゃ似合いそうだな……)
お人形さん、もとい、お姫様だろうか。
あの、ふわりとしたこげ茶の髪を揺らして、スカートを翻す様子が目に浮かぶようだ。
膝丈の清楚なワンピースは、いかにもお嬢様っぽくて。オフショルダーのパフスリーブが、初夏らしい爽やかさと、瑞々しい(って言い方なんかおっさんくさくない? でも、それくらいに肌がつやっとしてぷるっとして健康的な感じの)色気を引き立たせて。腰の絞りが華やかで。あどけない顔に似合わず、おっぱいが大きぃ……
(あれ……?)
目の前に現れたプリンセスに、どこからが妄想だったか思い出す。
違う。妄想なんかじゃない。目の前には、間違いなくプリンセス然とした白咲さんが立っていた。
「ボンソワール?」
思わず、思考が口からだだ漏れる。
だって、そう言いたくなるくらい、目の前にいる女の子が愛らしくて。お人形さんみたいで。
まるで生きたアンティークドールに挨拶するみたいに、声が出てしまった。
おかしなことを口走ったと気がつき、咄嗟に口を抑えると、白咲さんが笑った。
そして……
「それを言うなら、ボンジュー、ですよ。ゆきさん、おはようございます」
楽しそうに、控えめに笑みを浮かべる。
「お待たせしてすみません、じゃあ、行きましょうか」
そう言って、白咲さんは、白魚のような指先を俺に差し出した。
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