第34話 複数人とのデートはアリか?

「兎にも角にも!」


 と。荻野は話を締め括る。


 俺に好きな人がいようがいまいが、デートすること自体は罪じゃない。

 だって加賀美さんは、俺の想い人ってだけで、恋人でもなんでもないから。


 好きになった側からすれば、可能性が0.1%でもあるのなら、自分と過ごしてくれる時間が欲しい。自分を見て欲しい、と。

 そこから齧り付いて食らいついて、モノにしようとする女の子がいれば、それこそ、俺みたいな奴には必要な子なんじゃないかって。


 それよりも。

 デートの最中に、そんなことを頭の中でウジウジと考えられる方がムカつく。

 せっかくなんだから、ちゃんと楽しめ!


 それが荻野の言い分だった。


 デートが終わって、「あ〜楽しかった、また会いたいなぁ」「もっと一緒にいたいなぁ」が、一番多い奴が勝つ!


 恋愛云々に関して疎い(というか、ほぼ初めてな)俺は、その言葉に、なるほどな、と納得した次第で。


「とにかく真壁はさぁ、加賀美さんのこと『ちゃんと好き』だと思うなら。自分からアクションしてみれば?」


「へ?」


「『ヘっ?』ってあんた……まさか、『一生片想いでいいです』とか言い出す感じ?」


「いや、さすがにそれは……俺だって、できることなら加賀美さんとデートしたいし、手だって繋ぎたいし……」


「はは。一丁前に『男子』してるよ。あの真壁がさぁ」


「お、荻野!? 俺だって、やるときはやる……」


「え〜、ほんとにぃ?」


「ほんとだよ! 本気だせば、多分……」


「だったらさぁ……見せてよ」


 ごにょごにょと尻すぼみになる言葉を遮って、荻野は挑発した。


「真壁の本気、見せてみろ。坂巻さんと白咲さんには悪いけど、おかげで女にも多少は慣れてきたんでしょ? デートへの誘い方も、自分の身で経験済み。しかも二回も。今なら、何かしらアクションできるはずじゃない?」


「それは、そうだけど……」


 「見せてみろ」って。なんでそんな挑発的なの? いやまぁ、そりゃあ、恋愛に関しては多分、荻野の方が先輩、大先輩だろうけどさぁ。

 でも、そういう荻野も、絶賛片想い中じゃん? むつ姉に。


 もにょもにょとストローの端を食む俺に、荻野が言い放つ。


「たとえそれで玉砕して、最終的に誰と結ばれることになっても。煽った以上は、あたしが最後まで見届ける。泣きたいときは一緒にいて、胸を貸してやるよ。六美さんよりは物足りない胸かもしれないけどww だからさ……がんばれ、真壁」


 にっ! と笑う、蒼いカラコンの瞳。

 荻野のやつ、まさか、踏ん切りのつかない俺の為に、わざと煽って……?


「荻野ぉ……」


 お前やっぱ、ほんといい奴だな……!


 ◇


 すっかり暗くなって帰宅した俺は、シャワーを済ませて、スマホを手に自室で寝転がっていた。

 親父とお袋は、今日も帰ってこないみたいだ。


 ぼーっと眺めるLINEのトーク画面には、白咲さんからの『週末にお会いできるの、楽しみにしてますね!』というメッセージが表示され、その下に『OK!』という俺の送ったスタンプが表示されていた。


(……何が、『OK!』なんだろう? これでよかったのか?)


 改めて見ると、トークスキル、もといLINEにおけるコミュニケーションスキルが全く上達していないのがよくわかる。


(そこは『俺も楽しみ』とか、『晴れるといいね』とかなんじゃないの? いや、天気予報だと晴れってわかってるわけだから、それも今更か?)


 自分で自分に突っ込みを入れるのも飽きてきた。というか、虚しいな。コレ。


「はぁ〜〜〜〜」


 どうしよう。


『そんなに罪悪感があるなら、いっそ、好きな人がいる、って打ち明けてからデートすれば?』


 脳裏に、荻野の言葉がよぎる。


 ただ、冷静になって考えると、白咲さんからの誘いは、「私もゆきさんとお話しがしたい」「先日のお礼がしたい」というのが主な趣旨だ。

 いくら目がハート(店長談)だからって、あんなに可愛い白咲さんが俺のことを好きなんて、思い上がりなんじゃないのか?


 その場合、好きな人がいると打ち明けたところで、見当違いも甚だしいし、小っ恥ずかしいことこの上ない。

 好きな人がいる、と話すのは、明確な好意を持って告白されてから……それが妥当なところだろうか。


 LINEの文面には、何度読み返しても、「先日のお礼をさせてください!」としか書いていない。


(俺の考えすぎか……?)


 使い慣れない方向に酷使した脳に酸素を送ろうと、深く息を吸って、吐く。


「週末かぁ……」


 俺、デズニーランドって行ったことないんだけど、大丈夫かなぁ?

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