第11話 風邪ひいちゃったの?ウチきなよ
その日の放課後。いつもながらにバイトに勤しむ俺たちは、『新フレーバー開発ノート!』と書かれた店長お手製のご意見ノートの真っ白なページとにらめっこしながら、店番をしていた。
「で~? デートで何着て行けばいいかわかんないって~?」
アイスをすくう専用のディッシャーを手入れしながら、荻野は楽しそうな笑みを浮かべた。
「一丁前に気にしてんじゃん。坂巻さんのこと」
「気にしてるって……そんなんじゃないって。ウチにはマジでジャージとスウェット、制服しかないんだよ。あとはTシャツな」
「Tシャツにデニムでも、イケてる奴はイケてると思うけど」
「仮にもデートだ、どうせ向こうは気合入れて来るんだろ? それでTシャツデニムってどうなん?」
「それが気にしてるって言うんだよ」
「だから違うってば……」
マスクの下のにやにやが隠しきれない荻野を横目に、俺はため息を吐いた。
「でも、服かぁ。あたしは黒とかシルバーが好きだから、一般的な女子にウケる服ってイマイチ……今回ばかりは力になれないかもなぁ。まぁ、買いに行く手伝いくらいならできなくもないけど」
「はぁ~? 坂巻とのデートのためにわざわざ服買わないといけないのか? それもなんか、気合入ってるみたいでヤだな」
「めんっっどくせ~男」
そうでなくとも、俺も荻野もダウナー系の人間だ。なんとも言えない気だるい空気に、バックヤードからむつ姉が顔を出した。
普段はおろしている、さらりと長い黒髪をポニテでまとめ、うきうきとした表情。
「なになに~? ゆっきぃ、おでかけするの? めずらしいねぇ~」
「あ、六美さん。そうなんですよ、真壁のやつ、今度女子とデート行くらしくって」
その言葉に、むつ姉のポニテとおっぱいが飛び跳ねる。
「えっ。えっ!? ゆっきぃがデート!? 女の子と!?」
「ち、ちがっ。そんなんじゃないって……! これはむつ姉の思ってるようなデートじゃなくて……!」
「なにがちげーんだ、おまえバカか」
わぁわぁと騒ぎ立てるむつ姉の横で、荻野はにやりと意地悪な笑みを見せた。
『親愛だろうが何だろうが、あんたが0.1%でも六美さんを好きな可能性があるのなら、ライバルになりそうな芽は悉く潰す』
と宣言してきた、先日の台詞が蘇る。
荻野は、俺が女子と仲睦まじくする様子をむつ姉にバラして、俺を場外に葬り去る腹積もりなのだ。
かくいう俺も、むつ姉に自身の恋模様(笑)を知られるのはなんだか恥ずかしくて耐えられない。
必然的に誤魔化そうとするが、それが荻野の目には未練たらしく映ったようで。マスクの下から盛大な舌打ちが聞こえてきた。
しかし、むつ姉はそんなのどこ吹く風だ。
慌てる俺に、むむむ、と顔を近づける。
「ゆっきぃ、顔赤いよ。ひょっとして照れてる~?」
「だから、そんなんじゃないって……!」
「じゃあ何~? あ。まさか。連勤しすぎで風邪引いちゃった?」
そう言って、「私がテスト期間で出れなかったせいだ、ごめんね~」と。おもむろに額を寄せ、背伸びをして俺のおでこにくっつけた。
でこ同士がくっついた拍子に、むつ姉の豊満すぎるおっぱいが俺にダイレクトアタック。
「「……!」」
絶句する、俺と荻野。
「うん、熱はないみたい。よしよし。でも、念のため早退したほうがいいかもね~。土日含めて七連勤は、ちょっと頑張りすぎだもん。ごめんね、りょーちゃん、あと一時間ちょいだけどひとりでがんばれる? 閉店業務できたっけ?」
りょーちゃん、と呼ばれた
「お任せくださいっ! 六美さん! あたしはやればできる女ですよっ!」
「じゃあ後よろしくね~。ゆっきぃ、私と一緒にもうあがろう?」
「え、でも。ほんとに風邪とかじゃあ――」
「ウチ来なよ。おかゆ、作ってあげる。食べるでしょ?」
「うん」
「ちょ、真壁……!?」
即答する俺。荻野のできる女アピールは、悉く裏目に出た。
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