第5話 キャラメルな笑み
(やべっ。ひょっとしてこの子……超人見知りだった?)
助けを求めるように荻野を横目で見ると、「ったく何してんだ……」な顔が、一瞬の後にによによ顔に変化する。
視線を戻すと、キャラメルの君は顔を真っ赤にして俯き、スカートの裾をもじもじと弄っていた。荻野が、ヒュウ、と冷やかすような口笛を吹く。
「えっと、あの……」
ゆっくりと口を開く少女を、じっと見守る。
これ以上何かへまをして、彼女を刺激するわけにはいかない。
「今日は、その……お、お兄さんの、オススメを……」
「へ?」
「ワッフリュコーンの、スモール、ダブルで。お兄さんのオススメを……好きなアイスをください」
ちらちらと上目遣いで顔色を伺う様、勇気を振り絞ったかのような、少しうわずった声に、やや紅潮した頬……
先日の坂巻の、「お兄さんイケメン」発言もある。
俺は直感した。
まさか……これがモテ期か?
レジ前で待機する荻野が、見えない位置からハンドサインで指示を出す。
『いけ! やれ!』
……じゃねーよ! 何を!? 何をどうしろって言うんだよ!?
「ええと、その……僕のおすすめは、ホッピングシャワァなんですけど……」
「……やっぱり。だって、いつもサービスしてくれる味、ホッピングシャワァだから……」
……だったら最初からホッピングシャワァって言えばよかったんじゃ……?
とは思ったが、ふふっ、と「そうだと思ったんだ」と言わんばかりに笑みを漏らすキャラメルの君が可愛すぎて、俺は我を忘れた。
思い出したように、慌てて後頭部を掻く。
「えっと、ダブルだから、もう一個ですよね? オススメ……オススメは、っと……」
どうしよう。ホッピングシャワァが好き過ぎて、他のがパッと思いつかない。
ショーケースに並ぶアイスに視線を右往左往させている間、キャラメルの君はわくわくとした表情で、ついはにかんでしまうのを堪えていた。
数秒の沈黙と、なんとも言えない空気に耐えられず、俺は暴露した。
「……すみません。俺、ホッピングシャワァが好き過ぎて……」
困ったように頭をちょこんと下げると、キャラメルの君は楽しそうに笑った。
一瞬、花畑に風が吹いたのかと思った。
それくらい、爽やかで可憐な笑顔だった。
「あっ……じゃあ、もうひとつは、お客さんの好きなやつにしましょう。今なら、キャラメリリボンか、キャラメリ抹茶オレ、キャラメリプレッツェル……他には……」
キャラメルが使用されているフレーバーを片っ端から挙げていくと、キャラメルの君は驚いたように目を丸くする。
「私がキャラメル好きなの……知って……?」
「いや、だって……いつもダブルのどっちかは必ず、キャラメル味ですよね?」
「……!」
はわわ! と一層顔を赤くした少女は、小さく何事かを呟くと、俺に向き直って顔をあげた。
「……じゃあ今日は、ホッピングシャワァと、キャラメリプレッツェルで」
今まで見た中で一番嬉しそうな顔に、俺も釣られて、笑顔で頷いた。
「かしこまりました、ホッピングシャワァと、キャラメリプレッツェルですね」
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