第5話 街並み
区役所からもらった地図を頼りに、ショッピングモールを目指してB地区を歩く。街中には驚くほど人がいない。人とすれ違うことも少ない。以前に住んでいたA地区では、そもそも人口が少ないから人通りも少ないのだが、B地区も出歩いている人が少ない。
後で気が付いたのだが、そもそも働く必要がないし、買い物も頻繁にする必要もないから出歩いてる人がいないのだ。2階建ての集合住宅が延々と続く道の先には、富士山が見える。高い建物がないからか、A地区より大きく、そして美しく見えた。人気がなく静かな街並み、たまに走っている大きなバス。永遠と続いてるのではないかと思う2階建ての集合住宅群。
そんな中を歩いて、ショッピングモールへたどり着いた。A地区でもショッピングモールはあったが、今思うと必要以上にけばけばしい所だった。流行の音楽が流れ、巨大なデジタルサイネージではカワイイ女の子が踊っていて、薄くメイクをした美少年が歌っていた。B地区のショッピングモールは無骨だった。食料、衣料、電化、雑貨など大きく分類されたエリアがあり、品物が並んでいた。品物には、それぞれ番号が振ってあり、入口に置いてあるタブレットを使って購入する。タブレットには、住民カードを挿入するスロットがあり、残高に応じて購入できる品物が表示される。チケットの残高がなければ、番号が選べず買うことができない仕組みだ。
よく知っているシステムだ。そう、僕がいたチームで開発してリリースしたシステムだった。A地区ではクレジットカードや端末での決済が主だった。つい先日、新紙幣が発行された際には、みんな面白がって現金を使った時期もあった。A地区にも自分が携わったシステムが動いているのは知っていたが、B地区用に開発したシステムを自分で使う日がくるとは夢にも思わなかった。とても複雑で不思議な気分だ。
タブレットの4隅をある順番でタップすると、裏モードと呼ばれる画面になる。タブレットに不具合が出た場合に使う、設定モードを呼び出す仕組みだ。このB地区にこの事を知っている人はいるのだろうか。きっと僕だけだろう。知ってるから何だっていうのだろうか。僕の意志でやってきたB地区。どこかでA地区に戻りたくなっているのだろうか。自分に問いかけてみる。答えは出ない。
必要最低限の生活用品を買った。周りに人は殆どいない。ショッピングモールで働いている人もいないのだ。全てはシステムで管理されており、何かあれば監視カメラで記録されている情報から、警察が駆けつけてくるのだ。警察も消防も働いている人は、全てA地区の住民だ。タブレットで購入ボタンを押すと、その日のうちに自宅まで役所の人が配送してくれるのだ。タブレットを元のあった場所へ返す。手ぶらで行って、手ぶらで帰る。それが、このB地区での買い物の仕方なのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます