第4話 たいくつな暮らし

僕に与えられた家は、2階建ての集合住宅の小さな一部屋だった。家の周りには色違い、大きさ違いの同じような集合住宅が何棟も建っている。単身者用と家族用で部屋数も違っているようだ。


間取りは、単身者用の部屋は玄関を入るとすぐに右手にトイレ、左手は洗面台とお風呂場だ。A地区の別荘では専用の温泉をひいて露天風呂まで作っていた。この家では、足は延ばせるものの普通のお風呂だった。その先には扉がありダイニングキッチンになっていた。10畳くらいだろうか。コンロ、食器棚といった基本的な家具は備え付けだ。先ほどニュースを見たテレビも付いている。その奥に8畳ほどの部屋があり、そこを寝室とすればよさそうだ。ベッドと布団一式も新品が用意されていた。小さなテーブルとイスが置けそうなベランダまで付いている。


以前住んでいた家は、とにかく広くて使ってない部屋がいくつかあった。庭も広くて池まであった。仕事が忙しく、ほとんど寝るだけの家。毎週決まった日に業者に掃除をお願いしていた。はたして、快適な家と言えたのだろうか。家で過ごした思い出の中では、寝る以外の事はほとんど覚えていない。あの生活は一体なんだったんだろうか。僕はガランとした何もない部屋でぼんやり考えていた。


耳をすませてみると隣の部屋から、わずかだが生活音が聞こえた。部屋の防音効果は高いらしい。挨拶くらいした方が良いのだろうか。ただ、A地区から、B地区に来る者など皆無だ。そんな人間が挨拶に行ったところで不審がられるだけかもしれない。僕はまだB地区のルールを知らないのだ。この地区では、人と人との関わり合いは非常に希薄なのかもしれない。トラブルを起こさぬよう、まずは様子を伺ってみよう。


何もない、何もしないたいくつな暮らしが始まるのだろうか。とにかく最低限の食料や部屋には用意されていない生活用品を揃えないと。ついでに近所も散策してみよう。役所からもらった地図を手に、僕はB地区の街へ出かけた。

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