魔法とは


 パパンに魔力を教えてやるよと言われ、庭に連れていかれた。


 魔力と聞いてちちょっとわくわくしている。


「いいかアーク、魔法は感覚を掴まないことには始まらない」


「うん」


「アーク、俺を抱け!」


「ふざけんな!」


 僕に男色の趣味はない。

 こちとらまだ9歳だぞ!

 初体験が父親だなんて闇が深すぎる。


「なんでお父さんと組んずほぐれずしなきゃいけないのさ、僕は普通に女の子が好きなんだけど…」


「そういう意味じゃねぇよ」


 パパンが呆れた半分、残念そうな顔で否定する。


「魔力の感覚を掴むには他人の魔力に触れるのが一番手っ取り早いんだ、だからまずは俺の魔力をお前に流すから感じ取ってみろ」


「なんだ、そういうことか」


 いきなりR18な展開に持っていかれるかと思った。


 パパンは僕の右手を取ってゆっくりと魔力を流してきた。


「え?なにこれ…なんだかもやもやする」


 パパンから流れてくる何かが右手から順にもやもやと言語化の難しい感覚に襲われる。

 皮膚の表面を覆っているような抵抗しようとしているような訳の分からない感覚だ。


「今は俺の魔力とアークの魔力が拮抗している状態だ」


「拮抗?争ってるってこと?」


「他人の魔力は反発する、アークの魔力が俺の魔力を外敵と判断して攻撃している状態だ」


 なんだか免疫みたいだ。


「今から俺の魔力を取り除くから、自分の魔力の動きを忘れるな」


 パパンは再び僕の右腕を掴んで魔力を吸い取った。

 体中を駆け巡っていた何かがスッと消えていく感覚がした。

 同時に自分の中にある何かがパパンの魔力を押し戻していく感覚があった。


「わかったか?」


「うーん…なんとなく?」


「それでいい、もう自分の魔力を動かせるな?」


「う~ん…」


 僕は自分の魔力に意識を向ける。

 はっきりとはつかめていないが、体の表面にいるような、中を巡っているような…


「自分の魔力を動かせるようになるまで練習しておけよ、魔力操作はそのあとだ」


「うん…ちなみに、さっきの魔力を取り出さずに僕の魔力が負けてたらどうなってたの?」


「…知らん、でも他人にはやっちゃだめだ、わかったな?」


 パパンは目を背けてしまった。

 いったい何をさせられたんだ…


「魔力ってのは不思議なもんで、やりたいことをさせようとするにはかなりの訓練がいる。でも自分が無意識にやりたいと思ったことはかなり不器用だが簡単に実現できちまう」


「うん?どういうこと?」


 無意識なら不器用でも簡単に実現できてしまう?

 言ってる意味が分からない。


「うーん…まぁ使っていればそのうち分かる、誰でも通る道だしな」


 パパンが何やら遠い瞳をしていた。

 まるで黒歴史ノートを親に見つけられてしまったような、そんな複雑な顔をしていた。







 数日後。


 僕は村の空き地で魔力を掴む訓練をしている。


 相変わらず魔力さんはふよふよしているし、いうことを聞いてくれない。


『右手に集まれー』と念じても応じてくれるのはほんの少しで、7割くらいの魔力はどこかに逃げてしまう。

 遊びたい盛りの幼稚園児を相手にしているような気分だった。


「むむむ…」


 なんだか疲れてきたな、精神統一とか試してみたほうがいいのかな…前世の漫画とかにも主人公の修行パートには鉄板ネタだったわけだし。


 僕は切り株の上で座禅を組んだ。


 座禅って頭を空っぽにしてリラックスするのが目的だっけ?

 結構ツライ姿勢だと思うけど、お坊さんたちはこんな事を毎日やっていたのか…

 本当にすごいんだなぁ…


 リラックスといえば前世では犬を飼っていたのを思い出した。

 僕の唯一といっていいほどの癒しだった。

 犬種はポメラニアンだ。


 白くてもふもふで…クリっとした目にピンと立った耳がかわいかった。

 利口な奴で僕がギリギリ怒らない程度のいたずらを仕掛けてくることが多かった。

 帰宅すると胸に飛び込んできて顔をべっちゃべちゃになるまで舐めてくる、そんなところも愛らしかった。

 お別れはとても悲しかったけど、天国でも待っててくれていると信じたい。

 僕はもうちょっと人生が続くみたいだから、大好きなおもちゃで遊びながら待っていて欲しいな…


「…っ?!」


 誰かの気配を感じてうっすらと目を開けるとルミちゃんと目が合った。


 なんだかとても驚いている。


「ん!…ん!」


『なにそれ!どうしちゃったの?!』と言っているようだ。


「あぁ…これ?お父さんから魔力の感じ方を教えてもらってさ、練習中なの」


「んー!」


 ルミちゃんが僕に走り込みダイブしてきた。


「そんな勢いで飛んだら危な…」


 もふっ!


「んん?!」


 何が起こった?!

 僕はルミちゃんを受け止めていない、未だ座禅をしているはずだ。

 なのになぜかルミちゃんは気持ちよさそうに僕に抱き着いている。

 そういえば、抱き着かれているのに待ったく感覚がないぞ…?


 しっかりと目を開けると、白くてもふっとしている毛のようなものが僕の周りを取り囲んでいた。


 あれ?僕から毛が生えてる?


 ルミちゃんが満面の笑みを浮かべながら僕をもふもふする。

 ルミちゃんの手は背中やら耳やらしっぽを怒涛のように撫でまわす。


 しっぽ?しっぽ生えたの僕?!


 鏡はないがルミちゃんの手の動きでそこに何があるかは想像できる。


「ルミちゃん、僕どうなっちゃったの?」


「ん」


『私が聞きたいよ』という目をしている。


「ちなみに、僕は今どんな格好してる?」


「んー」


 ルミちゃんが両手を頭の上につけてうさ耳のような表現をした後、しっぽが生えてるよ、あともふもふしてる。と目で語ってくれた。


『自分が無意識にやりたいと思ったことはかなり不器用だが簡単に実現できちまう』


 パパン…こういうことか…


 どうやら僕は人型ポメラニアンになったみたいだ。

 これ戻るのかなぁ…



 それから数分後、たまたま空き地の近くを通ったパパンに爆笑された。


 2時間ほどルミちゃんにもふられたあと、ママンに優しいめ目されながら魔力を戻してもらえた。



 その日から僕が空き地の切り株で座禅を組んでいるとルミちゃんがガン見してくる。


『いつでももふもふになっていいからね!』と訴えている目だ。


 しないから!もうならないから!



この一件でなんだかんだ魔力の感覚を掴んだ。

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